フィリピン中国系住民「チノイ」のお金の感覚—驚くほど質素な人たち

フィリピン中国系住民「チノイ」のお金の感覚—驚くほど質素な人たち

スペイン系フィリピン人の友人がいます。父親のいない母子家庭で育った、目が覚めるような美人です。

その友人が結婚したのが、チノイの眼科医でした。旦那さんの一族はあちこちにクリニックを展開している眼科一家で、友人も眼科医として働いています。子どもも二人生まれて、傍から見れば絵に描いたような成功した家庭です。

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でも旦那さんの浮気が原因でセパレート。しばらく音信不通だった友人から「色々片付いたから会おう!」と連絡が来たのは、そんなタイミングでした。

久しぶりに会った友人は開口一番こう言いました。

もうやってられへんわ。自分のクリニック出して、独立することにしてん!

注:友人はタガログ語で捲し立てていたのですが、様子がむちゃくちゃ関西人っぽかったので、そう訳しましたご了承ください。

旦那が家を出て行ってから、彼が送る月々の養育費の話し合いになったら最初に提示した40,000ペソが、気づいたら25,000ペソになり、先週には「10,000ペソで勘弁してくれ」と言ってきたそうです。

眼科クリニックを複数持つ一族なのに、子どもが二人いるのに、1日160ペソで何を食べさせろというのか。
マクドナルドでも160ペソでは満腹にはなりません。

誕生日も記念日も、一回もお祝いしてもらったことあらへんねん。『祝ったところで何が変わんの?』やって。高いもん買ってくれとか言うてるわけちゃうやろ。カップルなんやから、たまに優しい言葉のひとつもかけてほしいやん。それすらあらへんから、せめて記念日くらいはって思うのは普通やんな?

自分のジムとかプロテインにはしっかりお金使うくせして、家族で旅行なんかめったにせーへんし、外食もほとんどせーへんねん。こっちには何にも示してくれへん。

養育費もな、もうそんなお金いらんわって断ったわ。そんなけちけちした金もらうより、自分で稼いだ方がよっぽどすっきりするわ。

そこへうちの旦那が

ぼくのチノイの友達もそうなんだけど…なぜか、金銭的に余裕があっても、貧乏でひもじい生活スタイルをするのを楽しんでるみたいなんだよね。お金貯めるんだけど、滅多に使わない

…と言ったら、友人が叫びました。

ほんまそれな!靴下は片っぽずつバラバラで、穴空いててもなんとも思わへんねん。パンツかて、ゴムゆるいとかそういう次元ちゃうねん、ゴムがもう完全に死んでんねん!それでも絶対新しいの買わへんねんで!!

二人でハイタッチしていました。

友人の旦那はかなり極端なケースだと思います。浮気、養育費のネゴ、愛情表現ゼロ——これはチノイだからというより、単純に人としてどうかという話です。

フィリピン人同士は離婚ができないんですよね…外国人とフィリピン人が離婚したら

ただ、お金の使い方に関しては話が別で、これは私の周りのチノイたちに共通して見られる特徴なんです。確かに、散財してるチノイの友人もいる。しかしそれは少数派。

大概はお医者さんでも、実業家でも、ビジネスを複数持つ一族でも——自分が「不要」と判断したものにはびっくりするほどお金を使わない。靴下の穴も、ゆるゆるのゴムも、気にしない。

そこだけは、なぜか共通している気がします。笑

……で、そもそもチノイって何者なんでしょう?

目次

チノイって何者?

正式には Chinese Filipino(チャイニーズフィリピーノ) と言います。TsinoyChinoy は、Tsino(中国人を指すタガログ語)と Pinoy(フィリピン人の愛称)を合わせた造語で、「私たちはフィリピン人だ」というアイデンティティが込められています。

多くは何世代にもわたってフィリピンで生まれ育った人たちで、ルーツは中国福建省(Fujian)にある家系が多いです。人口はフィリピン全体の約1〜2%とされる少数派ですが、経済・政治・文化面での存在感はその数字以上に大きいと言われています。 (参考:From Sangley to Tsinoy — University of the Philippines CIDS

フィリピンには、外から来た文化や言葉が独自の形で定着した例が他にもあります。→ネグロス島の名前の由来|「黒い人々」という意味でも現地では違う受け止め方だった

中国系文化がフィリピンの日常にどう残っているかは、アンパオ文化の記事でも少し触れています。

無駄を愛さない哲学

冒頭の友人の旦那の話、「これ、うちの周りにも似たような人がいる」という声はよく聞くので、まったく珍しくない話のようです。

ある日、元同僚夫婦とお茶をしていたとき、奥さんがタッパーに入れた自前のケーキを取り出して食べ始めたんです。カフェで。飲み物代はちゃんと払っていました。ケーキだけ、自前。しかも全然恥ずかしそうじゃない。自然体。

これを聞いたとき、もはや清々しいと思いました。

自分が投資と判断したものには使う、そうでないものには一切使わない——その基準が外から見るとときどきびっくりするほど明確なんです。見栄や体裁よりも実利を重視する、ある種の合理主義なのかもしれません。

本物より「本物みたいな偽物」を選ぶ

節約の話でもう一つ忘れられないエピソードがあります。

日本人の友人がマニラで絵付け教室を開いているのですが、あるチノイの裕福なご家庭にお邪魔したら、壁一面に高級ブランドのバッグが飾られていて。「すごい!」と思ったら、全部フェイクだったそうです。しかも恥ずかしがるどころか、「すごいでしょ、これみんなクラスAなのよ!」と楽しそうに話してくれたとか。

クラスAの偽物とは?

フィリピンで偽物といっても、実はグレードがあります。

一番上がクラスA(Class A)、さらに上のクラスAAAと呼ばれるものまであって、これは「本物と見分けがつかないレベルの偽物」として流通しています。素材の質、縫製、刻印、ロゴの位置——細部まで本物に近づけて作られていて、慣れた人でもぱっと見ではわからないものもあります。

たくさんのショッピングモールとともに暮らす文化があるフィリピンですが、有名な場所がマニラの グリーンヒルズ(Greenhills Shopping Center) です。観光客にも知られた場所で、高級ブランドのコピー商品が並ぶエリアとして長く知られてきました。

ルイ・ヴィトン、グッチ、エルメス、プラダ、シャネルなど、一流ブランドのクラスAが店の奥や仕切りの裏に置かれ、値段交渉が繰り広げられています。値段は本物の何十分の一。買い手も売り手も、偽物だと知った上でやり取りしています。

フィリピン税関はたびたび大規模な摘発を行っていて、2025年にはディビソリアで偽ブランド品が158億ペソ(約400億円相当)分押収されるほどの規模です。それだけ需要があるということでもあります。

本物を持つことより「賢く手に入れた」ことに満足感を置く——これも見栄にお金を使わない文化の表れなのかもしれません。

なぜそうなったのか——フィリピーノチャイニーズが歩んだ歴史

チノイのお金の使い方を見ていると、最初は「ケチ」という言葉が浮かびます。
でも少し歴史を知ると、見え方が変わってきます。

スペイン統治時代、中国系住民は経済的に必要とされながらも、差別・排斥・時には虐殺の対象にもなりました。1603年だけで推定1万5千〜3万人が殺されたという記録が残っています。いつ財産を奪われるかわからない環境では、目に見える形で富を見せないことが、文字通り身を守る術だったわけです。

少数派として、いつ追い出されるかわからない立場だからこそ、使わずに蓄える。見栄を張るより、いざというときのための蓄えを優先する。そういう習慣が、何世代もかけて染み込んでいったんだと思います。

さらに福建系にルーツを持つ家系が多く、歴史的に商業と深く結びついてきた背景から、お金は「使うもの」ではなく「回すもの」という感覚が根づいているのかもしれません。倹約をよしとする価値観も、そういった文化の中で受け継がれてきた部分があるのだと思います。
(参考:商業との結びつきについて — Britannica

ゆるゆるのゴムのパンツも、タッパーのケーキも、そういう重なりの上にあるのかもしれません。

そして私が思うのは、それだけじゃないということです。そうした歴史を思うと、この倹約の中には、単なるケチでは片付けられない感覚があるのかもしれません。派手に使わないのは、弱さではなく、積み上げてきたものへのリスペクトなのかもしれない。

友人のダメ旦那の話を聞きながら、ふとそんなことを思いました。

一般的には、フィリピンではお金が家族単位で動く感覚も強く、一般的な仕送り文化についてはこちらにまとめました


まとめ:ケチじゃなくて、哲学なのかもしれない

チノイのお金の使い方、一言で「ケチ」と片付けるのは少し違う気がしています。

歴史があって、価値観があって、誇りがある。その積み重ねが、靴下の穴を気にしない姿勢になり、タッパーケーキの自然体になり、フェイクバッグを堂々と自慢する笑顔になっているのかもしれません。

ただ、養育費まで削るのはさすがにどうかと思いますが。笑

※これはあくまで私の周囲の体験談です。チノイの方全員がこうというわけではありません。

Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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