【本物のウベ】生の芋を市場で買って、ウベハラヤとウベジャムを手作りしてみた話

【本物のウベ】生の芋を市場で買って、ウベハラヤとウベジャムを手作りしてみた話

正直に言うと、私はウベを使った飲み物やお菓子があまり得意ではありません。理由はあの強烈な紫色と、歯に染みるような強い甘さです。「本当にこんな色や味の食材があるのだろうか」と、ずっと半信半疑でした。

フィリピンで暮らしていると、ウベを使った食品を見かけない日はないと言っていいほどです。ドリンク、アイスクリーム、パン、ケーキ……街のいたるところに、あの鮮やかな紫色があふれています。

ところが、あるとき気づいてしまったんです。芋そのものである「生のウベ」を、一度も見たことがないと。

ウベについて書かれた記事はネット上にたくさんありますが、実際に生のウベを手に入れて、皮をむき、茹でて食べ、加工してみた記録はあまり見かけません。この記事では、実際に2kgの生ウベを買って格闘した体験をもとに、「本物のウベ」がどんな見た目・味・食感なのか、そしてウベハラヤとウベジャムの作り方まで、実体験ベースでまとめてみます。実は「よく見るイメージ」と「本物」にギャップがある食材はウベだけではなく、なぜフィリピンのトマトは青いのかという記事でも、似たようなギャップを扱っています。

目次

「生のウベ、見たことある?」から始まった市場探し

旦那に「生のウベって見たことある?」と聞いてみたところ、「そういえば見たことないや」との返事。フィリピン在住歴の長い旦那ですら見たことがないなら、これはもう都市伝説なのでは……と思い始めた矢先、60歳の友人アリエルに話したところ、こう一蹴されました。

「何言ってんのよ。大きいパレンケ(市場)に行けば普通に売ってるじゃないの」

というわけで、アリエルに導かれて向かったのが、タガイタイにある有名なパレンケ「マホガニーマーケット」でした。(フィリピンの市場での買い物風景については、野菜スタンドの話でも触れています)

ネットでよく見る「ウベ」の写真は、小ぶりなさつまいものような、可愛らしいたたずまいをしています。私はその姿を思い浮かべながら、色とりどりの果物が山積みになった市場を歩き回りました。

ところが、ふと気づくとアリエルの姿が見当たりません。どこに行ったのかと探していると、人混みの向こうに、彼の坊主頭がひとつだけ飛び出しているのが見えました。

鮮やかな果物が並ぶ賑やかな一角から少し外れた、人気のない場所。彼はそこに立って、あるものを指さしていたのです。

発泡スチロールの箱に積まれていたのは、巨大な木の根っこのような、茶色と灰色の塊でした。

木の根っこのようなウベ

これが、あのウベだったのです。

表面は硬く乾燥していて、これで頭を殴られたらしばらく立ち直れなさそうな、そんな武骨な見た目。手に取るとずっしりと重く、ひとつの塊で30センチほどもありました。よく見ると、表面の一部から紫色の中身がのぞいています。

「こんなにゴツいものが、あの飲み物やお菓子になるまでには、いったいどれだけの加工が必要なんだろう……」としばらく絶句して眺めてしまいました。

私としては、少しだけ欲しかったんです。試しに茹でて食べてみたい。お菓子じゃない食べ方――ホクホクのウベにバターを落として食べる、そんなシンプルな楽しみ方をしてみたい。それで美味しかったら、少量だけウベジャムも作ってみたい。あくまで気軽に、少しだけ。

ところが。

「え?2キロ?タラガ(本当に)?」

裏返った旦那の声が響きました。どうやらこの市場では、ウベは大量に買うのが当たり前のようなのです。

アリエルは「茹でて冷凍しておけば2年は持つから大丈夫よ」と涼しい顔。(※後で調べたところ、茹でて冷凍した場合の安全な保存期間は2ヶ月ほどでした。2年は盛りすぎです。)

結局、額に汗を浮かべながら、私たちは2キロの生ウベを購入することになったのでした。

皮むきで痒くなる、生ウベの洗礼

皮むきは旦那に任せることにしました。普通のピーラーでは、あの硬い表面に歯が立ちそうもなかったからです。旦那は包丁で、木の皮のようなゴツゴツした表面をザクザクと削ぎ落とし、4センチ角ほどの大きさに切り分けてくれました。

作業の途中、旦那が顔をしかめながらこう言いました。

「手と腕がすごく痒い……なんかたくさんの蚊に一気に刺されたみたいな、痛痒さがあるよ」

どうやら生ウベの汁(サップ)には、肌を刺激する成分が含まれているようです。自分でやらなくてよかった……と密かに胸を撫で下ろしました。生ウベを扱うときは、素手ではなくゴム手袋が必須だと、身をもって学びました。(今回の皮むき担当だった旦那の普段のキャラクターは、ライアンに聞いてみた:日常編でも紹介しています)

生のウベを皮を剥いた状態。
左:茹でる前のウベ。右:10分茹でた後のウベ。ちょっと色があせた?

茹でた生ウベを食べてみたら

10分ほど茹でた生ウベを、実際に食べてみました。

まず驚いたのは色です。よく見るあの鮮烈な紫色ではありません。もっとシックで、自然な、優しい紫。茹でると心なしか少し青みがかったようにも見えました。

味は、たしかにウベ特有の自然な甘みを感じます。ただし、それは決して強い甘さではありません。むしろ、砂糖やココナッツミルクを加えて初めて、私たちがよく知る「あのウベの味」が引き立つのかもしれない――そう感じました。

食感も独特でした。10分の加熱では結構繊維質が残っていたのですが、それでいて粘り気もある。これが、普通のジャガイモとの一番の違いだと思います。

正直に言うと、見た目はあまり食欲をそそるものではありませんでした。当初の予定だった「茹でてバターを落として食べる」という気持ちは、この時点で失せてしまいました。

「これはペーストにするのが一番だな」

そう確信した瞬間でした。ウベを使った料理――たとえば煮物や炒め物のような形――をあまり聞いたことがないのは、もしかするとこの見た目と食感のせいなのかもしれません。

実際に調べてみると、この直感はあながち間違っていなかったようです。同じ紫系の芋でも、タロイモ(ガビ)はシニガンやライングのような「おかず」に使われる一方、ウベはほぼ甘い調理法に限定されてきた食材だとされています。唯一の例外として「シニガン・サ・ウベ」という、通常タロイモを入れるシニガン(酸味のあるスープ料理)にウベを使うアレンジ料理があるようですが、これも家庭料理というよりは変わり種レシピという位置づけのようで、一般的な「おかず」として定着しているわけではなさそうでした。

デンプン質が多く、繊維質で粘り気があるというあの独特な食感が、結果的に「甘くして食べる以外の使い道がほとんど発達しなかった食材」にしたのかもしれません。

フィリピンの食文化には、こうした「知られているイメージと実態が違う」ものがまだまだあります。フィリピンの冷たい料理文化についても、同じような思い込みのズレを扱っています。

そもそも「ウベハラヤ」と「ウベジャム」は何が違うのか

作り方に入る前に、少し整理しておきたいことがあります。実は「ウベハラヤ」と「ウベジャム」、フィリピン国内ではこの2つは明確に区別される言葉です。海外では「ウベジャム」が「ウベハラヤ」と同じ意味で使われがちですが、フィリピンの家庭では別物として扱われています。

  • ウベジャム:ハラヤより柔らかく伸びが良いテクスチャー。そのまま食べるというより、パンデサルや食パンに塗って食べるもの。
  • ウベハラヤ:アメリカで言うサツマイモキャセロールに近い立ち位置のデザート。ただしウベはサツマイモよりデンプン質が多いため、より濃厚でしっかりとした食感になる。潰したウベを、バター・砂糖・ココナッツミルクと一緒にじっくり練り込んで作る、手間のかかる料理。

ちなみに「ハラヤ(halaya)」という言葉は、スペイン語の「ゼリー」を意味する言葉に由来するそうです。語源をたどれば「ジャム」も「ハラヤ」も似た意味を持つのに、フィリピンの家庭では長年かけて別の料理として区別されてきた、というのが個人的には面白いポイントでした。

ウベハラヤの作り方(甘さ控えめ)

こうして手に入れた生ウベで作ったのが、砂糖控えめの「ヘルシーウベハラヤ」です。

ウベハラヤの完成。

材料

  • 茹でたウベ 500g
  • ココナッツミルク 150〜200ml(または牛乳)
  • バター 20〜30g
  • 塩 小さじ1/4
  • はちみつまたは黒糖 大さじ1〜2(お好みで。甘さ控えめにしたいなら無しでもOK)
  • バニラエッセンス 少々(なくても可)

作り方

  1. 茹でたウベを熱いうちに潰す(裏ごしすると滑らかになりますが、フォークで潰すだけでも十分です)
  2. 鍋に材料を全部入れる(焦げやすいので弱火で)
  3. 木べらで15〜20分混ぜる(だんだん水分が飛んでクリーム状になっていきます)
  4. 味見をして甘さを調整する
  5. 冷ます(冷えると少し固くなります)

ハラヤ作りで一番緊張したのは、ココナッツミルクとバターを加えた瞬間でした。鍋の中で、ウベの紫色が真っ白なココナッツミルクに一気に飲み込まれていくんです。まるで大量のボンドを流し込んでしまったような、白濁とした状態。「これ、本当に綺麗な紫に戻るの……?」と、しばらく不安に襲われました。

ココナツミルクとバターを入れたばかりの状態。かなりボンド感が…。
ココナツミルクとバターを入れたばかりの状態。かなりボンド感が…。

ブレンダーがあれば話は早いのでしょうが、我が家にそんな高級な道具はありません。木べらで、汗だくになりながらひたすら練り込みます。すると少しずつ、少しずつ、紫が優勢になっていく。最終的には、上品な紫色のウベハラヤに落ち着いてくれました。

肝心の味はというと――これがなかなか言葉にしづらいんです。芋本来の、あの味。強いて言うなら、南国の太陽が生み出した味、とでも呼びたくなるような。焼き栗にある、あのコクのある甘さに通じるものを感じました。

そしてそれが、ココナッツミルクとぴったり合うんです。ココナッツミルクがウベの持つポテンシャルを100まで引き上げてくれて、そこにバターがさらなるコクを与え、砂糖がキャラクターを引き締める。そんな役割分担のように感じました。

一般的なレシピではコンデンスミルクを加えることも多いようですが、私はあえて入れませんでした。40代を過ぎてから、甘ったるいものが少し苦手になってしまったからです。ウベとココナッツミルク、この2つが持つ自然な甘さだけで十分。そうしてできあがったのは、いわば個性的な「フィリピン版あんこ」でした。

バリエーション①:もっとシンプルに

私自身が作るなら、もっとシンプルにすると思います。実は砂糖はほとんど入れず、

  • ウベ
  • ココナッツミルク
  • バター少し
  • 塩少し

だけで作ります。このほうが、ウベ本来の香りをしっかり感じられるからです。

バリエーション②:さらにヘルシーに

  • バターなし
  • ココナッツミルクのみ
  • 塩少々

これだけでも十分美味しく仕上がります。ただしこの場合、食感は「甘いお菓子」というより「紫色のマッシュポテト」に近くなります。パンに塗るというよりは、おかずやおやつ感覚で食べるイメージです。

ウベジャムの作り方(甘さ控えめ)

見た目の課題はペーストにすることで解決できるとわかったので、ハラヤに加えてジャムも作ってみました。

材料

  • 茹でて潰したウベ 500g
  • ココナッツミルク 200ml
  • 牛乳 100ml(なくても可)
  • バター 20g
  • 砂糖 50〜100g(一般的なレシピでは200〜300g入れることもあるので、かなり控えめです)
  • 塩 小さじ1/4
  • バニラ 少々(お好みで)

作り方

  1. 材料をすべて鍋に入れる
  2. 弱火で20〜30分、焦げないように混ぜ続ける
  3. 木べらで線が引けるくらいの固さになったら火を止める(ジャムなので、ハラヤより少し柔らかめで止めるのがコツです)
ウベジャムと餅米のおやつ「スマン」と一緒に食べる。
ウベジャムと餅米のおやつ「スマン」と一緒に食べる。

バリエーション:ウベスプレッド

砂糖をもっと減らしたい場合は、「ジャム」ではなく「ウベスプレッド」と考えるのがおすすめです。

  • ウベ 500g
  • ココナッツミルク 200ml
  • バター 20g
  • 塩 少々
  • はちみつ 大さじ1

これでもパンに塗って十分美味しく仕上がります。ただし日持ちはしないので、冷蔵なら2〜3日以内、それ以上は冷凍保存がおすすめです。

ちなみに、私が使った砂糖はマスコバード(フィリピン産の黒糖)だったので、写真で見るとやや茶色みがかった仕上がりになっています。塩はパンガシナン地方で採れたシーソルトを使いました。

栄養面から見るウベ

見た目のインパクトに反して、ウベは栄養価も高い食材です。100gあたり約118kcalで、食物繊維は4.1g含まれています。ビタミンCは1日の推奨摂取量の約40%、カリウムは約13%を1食分でカバーできるとされています。

そしてあの鮮やかな紫色の正体は、アントシアニンという抗酸化物質で、ブルーベリーなどにも含まれる成分と同じ系統のものだそうです。さらにサツマイモと比べて血糖値への影響が緩やかな低GI食材ともされています。

見た目は地味だし、正直そそられる食欲ではなかったのですが、実は結構体にいい食材だったというのは、今回の体験を通して意外な発見でした。(参考:Healthline – 7 Benefits of Purple Yam (Ube)

なぜウベはこんなにフィリピンで愛されているのか

最初は「なぜここまで愛されているんだろう」と不思議に思っていたウベですが、調べてみると単に「映えるから」ではない、もっと根深い理由がありました。

フィリピン・パラワン島のイレ洞窟の遺跡からは、紀元前8250〜3050年ごろ、つまり今から5,000〜10,000年以上前のウベとタロイモの炭化した痕跡が発見されているそうです。米が主食になるずっと前から、この土地の人々を支えてきた作物だったということになります。実際、稲作が普及する以前、バタネス諸島のイヴァタン族はウベを主食としており、今でも特別な行事の際に振る舞われたり、来客への贈り物にされたりする、特別な食材として扱われているといいます。

さらに象徴的なのがボホール島の話です。ボホールの「キナンパイ種」というウベは、戦争や干ばつといった苦しい時代に人々の命をつないできた作物として大切にされてきた、とも言われています。実際、ボホールの州讃歌「Awit sa Bohol」にも、このキナンパイを讃える一節が登場します。つまりウベは、フィリピンの人々にとって「飢えを凌いできた作物」という、いわば命綱のような存在でもあったのかもしれません。

そこから時代が下り、生のウベを皮むきし、茹で、潰すという手間のかかる工程そのものが、特別な日のためだけに手をかける「特別な食べ物」としての地位を確立させていったとされています。まさに今回私たちが経験した泥臭い手作業こそが、ウベを特別な存在にしてきた理由だったのかもしれません。(参考:VERA Files – Know your Philippine Ube

フィリピンの食べ物の名前や由来を掘り下げる話としては、パンブリカットの話ハロハロとかき氷の起源もあわせてどうぞ。

まとめ:苦手だった私が、少しだけウベを好きになった話

最初にお話しした通り、私は派手なウベドリンクやウベスイーツが今もそこまで得意ではありません。あの強烈な紫と、歯に染みる甘さは、正直まだ少し苦手です。

でも、素材そのものと向き合って、砂糖控えめで作った「自分のウベハラヤ」は、素直に美味しいと思えました。ウベ本来の、南国の太陽のような、焼き栗にも似たコクのある甘さ。それはきっと、市販のウベ製品からは感じ取れなかった味だと思います。

そして何より印象的だったのは、毎日のように見かけるあの鮮やかなウベ製品の裏に、こんなに武骨で不格好な芋があったという事実です。派手なウベ文化の表側と、市場の片隅で見つけた泥臭い現実。そのギャップこそが、この記事で一番伝えたかったことなのかもしれません。

もし現地の市場で生のウベを見かけることがあれば、ぜひ一度、自分の手で皮をむいて、茹でて、練ってみてください(ゴム手袋はお忘れなく)。きっと、ネットの記事だけでは分からない「本物のウベ」に出会えるはずです。

こうした「派手な表側と、地味で泥臭い裏側」というギャップは、フィリピンという国そのものを語るときにもよく顔を出すテーマだと感じています。フィリピン人のレジリエンスの話にも、通じるものがあるかもしれません。


この記事は「食」カテゴリの記事です。フィリピンの食文化についての他の記事は、コーヒートニックの話もどうぞ。

Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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