日本の「桃太郎」に夫が目を輝かせた日:フィリピンに美味しいトマトがない?
夫が初めて日本に来たとき、うちの庭でトマトを食べました。一口食べて目を輝かせて、「こんなに甘い、スイーツみたいなトマトがあるんだ」と頬張っていた。
そのとき私は思いました。「フィリピンには品種改良の技術がまだ発達していないのかな」と。
フィリピンのスーパーや市場でトマトを探すと、大概全部青い。硬い。赤いものを探してみたけど、いつもは手に入らない。結局トマト缶で済ませてしまう、ということが続いていました。

子どもの頃、北海道の実家で父がトマトを育てていました。熟れる前に落ちてしまった青いトマトを、父はピクルスにしていた。あまり美味しいとは思わずに食べていたその記憶があって、青いトマト=失敗作、というイメージが自分の中にずっとあったんです。
でも、ふと気づいたんです。
まずいものをフィリピンの人たちがわざわざ売り続けて、食べ続けるわけがない。何か理由があるはずだと。
フィリピンのトマト・カマティス。実は「未熟」じゃない
フィリピンでは、トマトを完全に赤くなる前に収穫するのが普通です。理由は主に3つあります。
- 暑さで完熟するとすぐに傷む
- 輸送中に柔らかくなって潰れる
- 市場に並んでから日持ちしない
フィリピンは年間を通じて高温多湿なので、完熟させてから出荷すると、店に並ぶ頃にはもう傷みが始まっています。だから、硬いうちに収穫して輸送するのが合理的なんです。
「青い=未熟」ではなく、「青い=流通に適した状態」というのがフィリピンの基準です。
フィリピン料理は「酸味」でできている
もう一つ大事な理由があります。フィリピン料理は、酸味を使う料理がとても多い。

- Sinigang(シニガン):タマリンドで酸っぱいスープ
- Adobo(アドボ):酢と醤油で煮込む保存食
- Kinilaw(キニラウ):酢や柑橘で締める魚料理
- Ginisang kamatis:トマトと玉ねぎを炒めた家庭料理
この「酸味を大事にする」文化は、気候と歴史からきています。冷蔵庫がない時代、酸味のある食材は食べ物の保存に役立ちました。酢、発酵、酸っぱい果物——これが食べ物を守る知恵だったんです。
そして酸味には、暑い日に落ちた食欲を回復させる効果もあります。タイがライムを多用し、ベトナムが酢を多用するのと同じ理由です。
酸味は「味の好み」ではなく、熱帯の生活の知恵から生まれた文化です。
だから料理に使うトマトも、甘い完熟トマトより、酸味のある青いトマトの方が好まれるわけです。
青いトマトに毒性はあるの?
「青いトマトって食べて大丈夫なの?」と気になった方もいると思います。
実は、青いトマトにはトマチン(tomatine)というアルカロイド成分が含まれています。ナス科の植物に多い成分で、大量に摂取すると体に良くないとされています。
ただし、次の3つの理由でフィリピン料理では問題ありません。
- 加熱することでトマチンは大幅に分解・減少する
- 料理に使う量では問題になるレベルではない
- 完熟に近づくにつれて、自然とトマチンは減っていく
SinigangやTinolaのように、トマトを長時間煮込む料理ならなおさら問題なし。フィリピンで何百年も普通に食べられてきた食材です。
「微量の苦み成分が含まれるが、加熱すれば問題なし」と覚えておけば大丈夫です。
品種がそもそも違う
日本のトマトは、1970年代以降に「甘さ競争」が進みました。桃太郎、フルーツトマト、ミニトマトなど、糖度と果肉の改良が重ねられてきた品種です。
一方、フィリピンのカマティス(kamatis)は:
- 小さめで皮が厚い
- 酸味が強い
- 耐暑性・収穫量が重視された品種
日本のトマトが「生食用」として改良されてきたのに対して、フィリピンのkamatisは最初から「料理用」として育てられてきた品種です。目的が違うから、味も見た目も違う。
実は昭和の日本も同じだった
面白いのは、フィリピンのトマトが「昔の日本のトマト」に近いと言われることです。
昭和のトマトは酸っぱくて固くて、砂糖をかけて食べる習慣がありました。スーパーでも、完熟前の状態で売られていた。それが1970〜80年代にかけて品種改良が進み、今の甘いトマト文化になりました。
フィリピンのトマトは「美味しくない」わけじゃなく、日本のトマトとは違う、調理用トマトとして、全く別な道を歩んでいるんですね。
実は青いトマトの方が栄養が多い部分もある
「赤いトマトの方が栄養がある」と思っていませんか。実は、得意分野が違うだけで、青いトマトにも赤いトマトに負けない栄養素があります。
| 栄養素 | 🟢 青いトマト | 🔴 赤いトマト |
|---|---|---|
| ビタミンC | ◎ 赤の約1.7倍 | ○ |
| ビタミンB群(B1・B2・B5) | ◎ 豊富 | △ |
| 鉄分 | ◎ 赤の約1.9倍 | ○ |
| 食物繊維 | ◎ 豊富 | ○ |
| ビタミンK | ◎ 豊富 | ○ |
| リコピン(抗酸化) | ✕ ほぼなし | ◎ 豊富 |
| ビタミンA | △ 少なめ | ◎ 豊富 |
リコピンは赤いトマトに多い抗酸化成分で、がん予防や心臓病予防との関連が研究されています。これは青いトマトにはほぼ含まれません。
一方、ビタミンCや鉄分は青いトマトの方が豊富です。免疫力や貧血予防が気になる人には、むしろ青いトマトの方が向いているとも言えます。
「栄養が少ない」のではなく、「栄養の種類が違う」だけです。
どちらが優れているかではなく、それぞれ得意なものが違う。
フィリピンの青いトマトを「劣っている」と思う必要は、栄養的にも全くないんです。
この話、トマトだけじゃない
フィリピンで暮らしていると、トマト以外でも同じ感覚に出会うことがあります。
「完璧じゃなくてもOK、これで今まで生きてきた」という価値観が、生活のいろんな場面にある。最初は「なんで直さないんだろう」と思うこともありました。
でもそれが、いつの間にかプライドに変わっていく人もいる。完璧じゃないままで堂々としている。
たまにそれが面倒、生活トラブルにつながることもあるので、なんとも言えないところもあります。
要は「小さいことはきにしなくていい。もっと緊迫した問題が日常にあるんだから」という事実につながっているんです。
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青いトマトも、そういう話なのかもしれません。
甘くない、赤くない。でもこれで何百年も料理してきた。それがフィリピンのトマトです。
最後に:青いトマトをカレーに入れて食べたら味がわからなくなった
今日、青いトマトをカレーに入れて食べました。写真を撮ろうとしたんですが、カレーと同化しすぎていたのでやめました。キニラウみたいな料理の方がトマトらしさは味わえると思いますが、青いトマトが苦手な人はこういう味の濃い料理に入れてみるのもいいかもしれません。

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