「ネグロス島」という名前、ちょっと気になりませんか。
意味を知ると、「え、そういう意味?」と一瞬考えてしまう人もいるかもしれません。
フィリピンに住んでいると、この名前はごく普通に使われています。でも英語圏の感覚では、「Negro (二グロ)」という言葉は歴史的にデリケートなニュアンスを持つことがあって、少し引っかかりを感じる人もいるようです。
では実際のところ、現地の人たちはどう受け止めているのでしょうか。
気になって、フィリピン人の夫ライアンに聞いてみました。
ネグロス島ってどこ?
フィリピン中部のビサヤ地方に位置する、国内で4番目に大きな島です。島は行政上ふたつに分かれていて、西側がネグロス・オクシデンタル、東側がネグロス・オリエンタル。サトウキビの産地として古くから知られ、「砂糖の島」とも呼ばれています。バコロドのチキンイナサルが有名らしく、いつか食べに行ってみたいと思っている島のひとつです。
スペインが来る前、島には別の名前があった
実は「ネグロス」という名前は、スペイン人が来るまで存在しませんでした。
それ以前、この島は「ブグラス(Buglas)」と呼ばれていました。古いヒリガイノン語(ビサヤ地方の言語)で「切り離された土地」を意味する言葉で、かつてより大きな陸地から海によって切り離されてできた島だという言い伝えに由来すると言われています。
スペイン人が到着した1565年、その名前は上書きされます。そこで暮らしていたアティ・ネグリト系の先住民の外見にちなんで、島はIsla de Negros——「黒い人々の島」と呼ばれるようになりました。
名前の意味は「黒い人々」
「Negros(ネグロス)」はスペイン語で「黒い人々」という意味です。英語の”Negro(ニグロ)”と同じ語源を持ちます。
スペインによる植民地統治の時代、命名の基準はしばしば「見たまま」でした。土地の色、地形の形状、そこに住む人々の外見——それをそのまま地名にするのは、当時のスペイン人にとっては自然なことだったのかもしれません。ただその感覚が、現代の目には引っかかりを生むことがある。
ネグロスという名前も、そういった時代の産物のひとつです。スペインが残したものはこの地名だけでなく、教会や文化としてフィリピン全土に深く刻まれています。→フィリピンの教会の内装、日本人には異質に見えること
アティ・ネグリト系の人々について
ここで少し、アティ・ネグリト系の人々のことに触れておきたいと思います。

(この画像はイメージ(AI生成)を使用しています。)
ネグリトは、フィリピンや東南アジアに古くから住む人々の総称(分類)。ネグリト系の人々は、フィリピン列島に古くから暮らしてきた先住系の人々のひとつとされ、現在も各地にコミュニティがあります。一般には、低地のマレー系フィリピン人と比べて肌が濃く、縮れ毛の人が多いと説明されます。ネグロス島という名前も、スペイン人がそうした先住民の外見から名づけたものだと考えられています。
フィリピン人の夫に聞いてみた
「ネグロスって名前、外国人のなかにはちょっと気になるって人もいるらしいけど、どう思う?」
ライアンはこう答えました。
元々のネグロって言葉もただ”黒”っていう意味で、特にネガティブな意味はないよ。肌の黒い人たちが住んでいた島、っていうだけ。むしろアイタの人たちを、ある意味リスペクトして付けられた名前だと思う。フィリピンの地名って、その場所の特徴をそのまま名前にするものが多くてね。ラスピニャスはパイナップル(ピーニャ)がたくさん採れた場所だったし、ロスバニョスは直訳すると”お風呂・トイレ”って意味だけど、豊かな水源があるからついた名前。ネグロスも同じ感覚じゃないかな。
そして、こう続けました。
ネグロスはきれいな場所だよ。ぼくらのほとんどは、いい名前だと思ってるはずだね。
「ピノイ」も、一時は侮辱的に使われた言葉だった
ライアンの話で印象的だったのが、「ピノイ(Pinoy)」の話でした。

ピノイって言葉も、アメリカでフィリピン人が侮辱的に呼ばれてた時代があったんだよ。でも今はみんなが誇りを持って自分たちのことをそう呼んでるでしょ?ほかの人たちも是非使って!ってくらいの感じでね(笑)
ピノイというのは「Filipino」の後ろにタガログ語の愛称語尾「-y」をつけた言葉で、もともとはアメリカに渡ったフィリピン人移民が自分たちを指すために作った言葉です。ただその後、一時期アメリカで侮辱的な意味合いでも使われるようになり、1960〜70年代のフィリピン系アメリカ人の活動家たちによって「自分たちの言葉として取り戻された」という歴史があります。
それが今では、フィリピン人のアイデンティティそのものを表す言葉になっている。
言葉の意味は、時代とともに変わります。そして何より、その言葉を使う人たちが、どんな気持ちで使っているかが、意味を決めるんでしょうね。
やっぱりフィリピン人って前向きだなあって思います。
「ブグラス」は今も生きている
ひとつ、興味深いことがあります。
スペインに上書きされた古い名前「ブグラス」は、完全には消えていませんでした。ネグロス・オリエンタル州では毎年10月に「ブグラサン(Buglasan)フェスティバル」が開催されています。島の古い名前にちなんだこのお祭りは1981年に始まり、各地域の文化や伝統を一堂に集める「フェスティバルのフェスティバル」として今も続いています。
「ネグロス」という名前を使いながら、お祭りにはあえて植民地以前の名前を冠している。そこに、自分たちのルーツを忘れまいとする気持ちが静かに込められているような気がします。
外からの視点と、内側の感覚
こうして調べてみると、「ネグロス」という言葉に対する印象は、立場によってかなり違うものだと感じます。
外から見れば少し引っかかる響きでも、ライアンのようにフィリピンの別の地域に暮らす人にとっては「ただの地名」として自然に受け止められている。では、実際にネグロスで生まれ育った人はどう感じているのか——それはまた少し違う感覚があるのかもしれません。いつか島の人に直接聞いてみたいと思っています。
フィリピンに13年以上住んでいると、こういう「外からは引っかかるけれど、内側では自然なもの」に、よく出会います。チノイ(中国系フィリピン人)の文化しかり、フィリピン時間しかり。名前の意味だけを切り取って判断するより、それがどんな文脈でどう生きているかを知ることの方が、ずっと大切なのだと思います。→チノイとは?フィリピンの中国系コミュニティの文化とお金の話
ネグロスという名前も、そのひとつなのだと感じました。
- ネグロス島の歴史
ネグロス・オクシデンタル州政府公式サイト - ネグロス島(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Negros - ブグラサンフェスティバル
https://www.orientcoast.com/uncategorized/buglasan-festival-dumaguete/ - ピノイの語源(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Pinoy
https://www.oed.com/dictionary/pinoy_n

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