フィリピンのコーヒーイベント「BIYAYA Sustainable Living Festival」に行ってきました

フィリピンのコーヒーイベント「BIYAYA Sustainable Living Festival」に行ってきました

先週の金曜から日曜まで、SMメガモールで「BIYAYA Sustainable Living Festival」というイベントが開催されていました。私が行ったのは最終日の日曜日。目当てはコーヒーだったのですが、行ってみたら想像していたより雑多で、面白いイベントでした。今日はその様子をレポートします。

BIYAYAのエントランスで飛び込んでくるブース。
BIYAYAのエントランスで飛び込んでくるブース。

入場料は1人1日350ペソ。6月にもっと大きなコーヒーイベントがあって、そちらは1人650ペソだったので、それに比べるとかなり手頃な印象でした。

目次

「BIYAYA」ってどういう意味?

BIYAYA Sustainable Living Festivalのイメージ画像。

タガログ語の「biyaya(ビヤヤ)」は「恵み」「授かりもの」という意味の言葉です。名前の通り、会場には「自然の恵み」や「暮らしの中のサステナビリティ」をテーマにしたブースがずらりと並んでいました。

ところで、この奇妙な文字、見たことありますか?これは「バイバイイン」と呼ばれるフィリピン独自の文字なんです。ビヤヤをバイバイインでかくと「ᜊᜒᜌᜌ」となる。日常では全く使われていませんが、表記システムは今でも明確。文化を大切にするフィリピン人たちの間で愛されています。

まずはコーヒーから

イベントのメインコンテンツはコーヒー。国内外のロースターが集まり、試飲もできました。

その中には、日本の京都から出店しているお店もありました。話を聞くと、世界各国のコーヒーイベントに参加しているとのことでした。

ちなみにフィリピンは、世界的にも珍しく主要4大コーヒー品種(アラビカ、ロブスタ、リベリカ〈バラコ〉、エクセルサ)すべてを栽培している国。世界的な知名度がブラジルやエチオピアほど高くないのは、単に「まだ世界市場で十分に認知されていないだけ」とも言われますが、正直なところ、品質面の課題も実際にあると思います。豆の粒がそろっていなかったり、精製・乾燥のための設備が十分に整っていなかったり、人手不足だったり、物流面のハードルがあったり——認知度だけの問題ではなく、こうした生産・流通の基盤の弱さも、知名度が上がりきらない理由の一つだと思います。だからこそ、後で触れるEighty Plusのような、品質管理や流通を支える企業の存在は大きいはずです。

一番目を引いたのは「Eighty Plus」というブース

数あるロースターの中で、一番印象に残ったのは「Eighty Plus」というブースでした。農家と買い手の間に入って、豆の選定から卸までを担う、いわば「コーヒーの目利き役」のような会社です。

何が特別だったかというと、会場でちゃんとした「カッピング(Cupping)」——コーヒーの品質評価に使われる正式なテイスティング方法——を行っていたのは、このブースだけだったこと。

Eighty Plusのブース。ここでは伝統的なテイスティングが提供された。
Eighty Plusのブース。ここでは伝統的なテイスティングが提供された。

小さな器にコーヒーを入れて、お玉のようなものですくって飲ませてくれるスタイル。正直、最初は戸惑いました。会場のほかのブースはたいてい、淹れたてのあつあつを紙コップに少しだけ注いでくれるのが定番。私もすっかり「コーヒーは熱々で出てくるもの」だと思い込んでいたので、お椀に入ったぬるいコーヒーを渡されたときは「あれ?」となったんです。

でも、飲んでみたら不思議と味がすごくよくわかる。「本当に美味しいコーヒーは、冷めても美味しい」と言うそうですが、まさにそれを体感した瞬間でした。

「Eighty Plus」がやろうとしていること

このEighty Plusという会社がやっているのは、突き詰めると「農家と買い手を、できるだけ簡潔に結ぶ」という仕事です。

これを聞いて思い出したのが、ガーナのカカオ産業の話でした。実はフィリピンもカカオを生産している国なんですが、カカオ業界では農家と最終的な買い手の間にいろんな業者が入り込んでいて、その分マージンがかなり抜かれてしまう構造になっているそうです。賄賂とか、そういう話ではなく、単純に「フェアトレードがちゃんと機能していない」というのが実情なんだとか。

コーヒーの世界にも似たような構造があるようで、Eighty Plusはそこを簡潔化しよう、というスタンスで動いている会社なんだそうです。

今、フィリピンのコーヒー農家はかなり厳しい状況に置かれています。地球温暖化による気候変動、そして農業を継ぐ人がいないことから、生産量はかなり落ち込んでいるそう。政府からの支援もそれほど手厚くなく、豆のクオリティを上げたくても上げられない——という話を、地元アマデオのコーヒー屋さんのオーナーさんから聞いたことを思い出します。

だからこそ、Eighty Plusのような会社の存在は、すごく大事だなと思うんです。そして、あのきちんとしたカッピングの提供という姿勢も、農家と豆に対する誠実さの表れなんだろうな、と今になって思います。

それと同時に、個人的にちょっと思ったこともあります。他のブースでよく見かけた「紙コップに少量、無料でいくらでもどうぞ」というスタイル。あれこそが、フィリピンにコーヒーという文化がまだそこまで深く根付いていないことの表れなんじゃないかな、と。

エントランスすぐにあったらブースにて。まずは試飲でお出迎えされました。
エントランスすぐにあったらブースにて。まずは試飲でお出迎えされました。

「無料でいくらでも飲める」というのは、来場者としては単純に嬉しいし、惹かれてしまう気持ちもよくわかります。でも、コーヒーの価値をきちんと味わい、評価する文化が本当に根付いている国だったら、Eighty Plusがやっていたようなカッピングスタイルのテイスティングが、もっと主流になっていてもおかしくないはずなんですよね。

ただ、これは「フィリピンだから」というより、業態の違いが大きいのかもしれません。Eighty Plusは農家と買い手をつなぐB2B寄りの会社で、他のブースの多くは一般消費者向けの小売・ブランディングを目的としたロースターでした。そもそもカッピングという手法自体、どこの国でも一般消費者向けというより、ロースターやバイヤーが豆の品質を見極めるための実務的な技術、という側面が強いものです。

とはいえ、この二つは対立する話ではなく、たぶん両方本当なんだろうなとも思います。フィリピンではまだ「コーヒーを吟味して飲む」という文化自体が一般消費者レベルでは薄いからこそ、B2C向けのブースがこぞって「無料でいくらでも」という接客に振り切っている、という側面も十分ありそうです。コーヒー文化がもっと成熟した市場だと、一般消費者向けのブースでも、テイスティングフライトのような、もう少し評価寄りのスタイルを見かけることが増えてきますし。

このカッピング体験について、ライアンにも話したら面白いことを言っていました。「フィリピン人ってコーヒーに限らず、なんでも甘くしないと飲めない人が多いのに、このテイスティングだと無糖で飲んでるのが面白いね」と。「ここにいるピノイは、いやでも『専門家』になっちゃうよね」——なるほど、確かに。普段は激甘コーヒーが定番のこの国で、無糖のまま真剣に味わっている瞬間があるというのは、ちょっとした発見でした。

ローカル

会場を回っていて感じたのは、豆の産地に対するこだわり方がブースによってかなり違うということでした。

中には、サガダ、アトック、アポなど、フィリピン国内のローカル産地にきちんとこだわった豆を扱う店もありました。マリキナ拠点の「Beanhi」というお店もその一つで、ミンダナオ産の豆を扱っていました。
マウントアポはミンダナオ島南東部、ジンジークもミンダナオ島北部。サガダなどはフィリピンのルゾン島北部にある山岳地方。そこから採れた豆を提供していました。

Beanhiのブースにて。ローカルの豆がずらっと並ぶ。
Beanhiのブースにて。ローカルの豆がずらっと並ぶ。

一方で、全体的には外国種の豆を使っているブースの方が多かった印象です。リベリカ種、パナマ種、エチオピア、タイランドなど。でも、よく考えると「外来種ばかり」というのは、むしろ当たり前の話なんですよね。

そもそもコーヒーの木自体、フィリピンの在来種ではありません。コーヒー(コフィア属)の原産地はアフリカのエチオピア周辺で、フィリピンには1740年、スペイン人のフランシスコ会修道士がメキシコからガレオン貿易船経由でアラビカ種の苗を持ち込んだのが始まりとされています。つまり、ブラジルもコロンビアもベトナムも、そしてフィリピンも、世界中のコーヒー産地は基本的にすべて「よそから来た」外来作物からスタートしているわけです。

North Star UPI のブースで試飲するライアンとアリエル。ここでは発酵したコーヒー豆を展示していました。
North Star UPI のブースで試飲するライアンとアリエル。ここでは発酵したコーヒー豆を展示していました。

面白いことに、カビテ州で最初にコーヒーが栽培されたのは1876年、アマデオでした。まさに私が今住んでいる場所です。バタンガス発祥のコーヒー栽培モデルがカビテに伝わり、その最初の土地がアマデオだった、という経緯のようです。

ちなみに、地元アマデオの豆がこういう高品質豆を扱うコンベンションになかなか出てこない理由も、調べてみて腑に落ちました。高品質なスペシャルティコーヒー、特にアラビカ種は、一般的に標高1000〜1800メートルくらいの高地で育てたものが評価されやすいとされています。実際、会場でも見かけたサガダの豆は、品種としてはアラビカ(ティピカ種)で、標高1300〜1400メートルほどの高地栽培。まさにこの条件にきれいに当てはまります。一方でアマデオの標高は330〜570メートルほど。むしろロブスタ種向きとされる「標高600メートル以下」に近い、コーヒー栽培としてはギリギリの高さなんです。歴史も土壌も恵まれているのに、標高という一点だけで、いわゆる「スペシャルティ」を名乗るのが難しい土地なんだな、と納得しました。標高が低い分、浅煎りでフローラルな個性を引き出す方向にはあまり向いていない、というのもあるのかもしれません。実際、会場で「高品質」を前面に出していたブースは、深煎りよりも浅煎りでフローラルな香りと味わいのものが多かった印象です。

コーヒーだけじゃなかった、山岳地方コーナー

会場を歩いていて驚いたのは、コーヒー以外の出店の幅広さです。特に目を引いたのが、フィリピンの山岳地方(コルディリェラ地方)に関連したブース群でした。

  • 織物や編み物などの民芸品
  • ソーセージなどの特産品
  • 山岳地方の伝統的な刺青(タトゥー)を実際に入れてもらえるブース

コーヒーのイベントだと思って行ったら、気づけば山岳民族の文化に触れているという、いい意味での「脱線」感がありました。

カリンガの伝統刺青「バトック」

中でも特に印象に残ったのが、山岳地方の伝統刺青を入れてもらえるブースでした。

カリンガ地方の伝統刺青が会場でおこなわれていました。
植物を針にして墨を入れていきます。痛そうだ…。

出店していたのは「Den Traditional Tattoo」というタトゥーアーティスト。カリンガ地方の伝統刺青「バトック(Batok/Fatok)」をベースに活動していて、現代的な衛生管理を取り入れながら、コルディリェラ地方の伝統的な文様や手法を紹介するスタイルでした。

カリンガの伝統刺青には、それぞれ意味があります。

  • 男性:勇気や戦士としての功績を表すもの。(昔は首狩をするたびに入れられたのだそう)
  • 女性:美しさ、成熟、保護、豊穣などを表すもの

現在では文化継承やアイデンティティの象徴として受け継がれているのですが、実際にはその土地から遠いマニラの人たちが入れているのをよく見かける、という点も興味深いところです。私が殺せるのはゴキブリぐらいだしなあ…。

世界的に有名な「アポ・ワンオッド(Apo Whang-Od)」も、カリンガ州ブスカラン村のマンババトック(伝統刺青師)で、竹と柑橘類のトゲを使った手打ちの技法を今も守り続けている人物です。

こういうブースは、単なる「タトゥー体験」というだけでなく、

  • フィリピン先住民族の文化を知ってもらう
  • 伝統技術を現代に継承する
  • アーティストが文化を守りながら生計を立てる

という、イベントのテーマである「サステナブル・リビング」にもきちんとつながっているんだなと感じました。

そして関係あるようなないような、マニラ発のお店たち

さらに面白かったのが、特に山岳地方とは関係のなさそうな、マニラを拠点とするお店も混在していたこと。手作りのハンドクラフトのお店がかなり多く、ピンバッチやシールを扱う若い出店者もたくさん見かけました。

そんな中、私はつい、頭頂部がピザになっている手編みのベレー帽を衝動買いしてしまいました(580ペソ)。

左から、ライアン、私、アリエル。ピザの帽子を試着しました。
左から、ライアン、私、アリエル。ピザの帽子を試着しました。

似合わないのはわかっていたし、コーヒーとも何の関係もないし、正直「サステナブル」というイベントのテーマからも相当遠い行為だったと思います。それでも、その場の勢いを、ライアンも、友人のアリエルも、そばで不思議そうに見ていた知らない子どもたちも、誰も止めることはできませんでした。

もう一つ、アリエルへのちょっとしたお土産にと、取っ手が男性器の形をしたマグカップも購入。記念に、と思って選んだのですが、2000ペソという値段には正直びっくりしました。それでも、買いました。

ずらりと並んだ手作りの陶器たち
認めたくはないですが、とても掴みやすい取っ手です。

そういえば、後から思ったのですが、山岳地方の工芸品には子孫繁栄や豊穣を願うモチーフが結構多いんですよね。リングリングオ(Lingling-o)という首飾りもその一つで、私もいくつか持っているのですが、あの独特な形は子宮を表しているのだそうです。そして、陰茎を模ったおもちゃや彫刻も、この地域では意外とカジュアルに売られていたりします。あのマグカップも、思えばそういう文脈の延長線上にあったのかもしれません。

もう一つ、昔から知っているブランド「Handcrafted by Harl’s」も出店していました。障害を持つ人などを積極的に雇用していて、オーナーを含め働く人たちみんなが男気あふれるブランドです。

Handcrafted by Harl'sの革製品をお買い上げ。これ以上似たバックは買わないでほしい!!
Handcrafted by Harl’sの革製品をお買い上げ。これ以上似たバックは買わないでほしい!!

ここではライアンがショルダーバッグを購入。「似たようなものたくさん持ってるでしょ」と止めたのですが、友人のアリエルはもう止めることすら諦めていました。結局2500ペソで購入していました。

「サステナブル・リビング・フェスティバル」という大きな括りの中に、コーヒー、伝統工芸、そして都会のクラフトショップまでがゆるやかに同居している。そのごちゃっとした感じが、なんだかとてもフィリピンらしいなと感じました。

350ペソの価値はあったか

結論から言うと、全く問題なく楽しめました。というか、正直「思ったより楽しめた」というのが本音です。

実は6月にもっと大きなコーヒーイベントがあって、そちらは650ペソでした。都合がつかず行けなかったこともあって、今回のイベントにはあまり期待していなかったんです。この価格で、一体どのくらいの熱量があるんだろう、と。

いつもの友人アリエルと一緒だったのも大きかったと思います。

友人のアリエルが被っているのは山岳地方で使用される帽子。熱を逃すためにサンバイザーみたいになっているらしいです。
友人アリエル。イベント好き。

彼はマニラの大手PR会社に長く勤めていたこともあって、いろんな知識を持っている人。「わー、おいしい」「かわいいー」と浅い感想になりがちな私の横で、あれこれ出展者に質問し、片っ端から試飲・試食しまくっていました。

もちろん、少し物足りなさもありました。地元アマデオのパヒミスあたりが出店しているかもと期待していたのですが、見当たらず(前述の標高の話も関係していそうです)。豆はどうしてもミンダナオ産に集中している印象がありました。

これだけ多岐にわたるアイテムが揃うのなら、コーヒーに合うフィリピン産のチョコレート屋さん(実は美味しい高級チョコレート屋さんがあるんです)があってもよかったのでは、とも思いました。

菓子パンを売っているブースもあったのですが、話を聞くとスーパーで買えるような安価な材料を使っているとのこと(アリエルが冗談半分で聞いた質問が、まさかのズバリ正解でした)。高級なコーヒー豆を展示するイベントとしては、ちょっとアンバランスな組み合わせだったかもしれません。だからこそ、期待していたようなコーヒー屋さんがいなかったのも、ある意味頷ける気がしています。

ライアンと友人・アリエルの凸凹コンビ。2人で歩いてると目立ちます。
ライアンと友人・アリエルの凸凹コンビ。2人で歩いてると目立ちます。

次はもっと大きなイベントにも顔を出してみたいと思いました。

それでも、今回のイベントも十分すぎるほど楽しめました。コーヒーといっても、それ自体は一つのジャンルにすぎなくて、それを語るにはさまざまなカルチャーの存在が欠かせない。逆もまた然りで、伝統工芸や手芸、あの衝動買いしたベレー帽やHarl’sのショルダーバッグも、コーヒーなくしては語れない。そんな調和を、楽しい形で見ることができた一日でした。

満足です。


Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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