バタフライナイフの故郷──バリソンを探しに、バタンガス州へ。日本への持ち帰りは可能か聞いてみた

バタフライナイフの故郷──バリソンを探しに、バタンガス州へ。日本への持ち帰りは可能か聞いてみた
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「バタフライナイフ」、実はフィリピンの誇りだった

一番長いバリソンを手にして映る私。無茶苦茶錆だらけ。
一番長いバリソンを手にして映る私。無茶苦茶錆だらけ。

「バタフライナイフ」と聞くと、日本ではちょっと物騒なイメージを持つ人が多いかもしれません。映画の中で悪役がブンブンと振り回すシーンって、妙に印象に残りますよね。あのビジュアルのインパクトのせいか、いつの間にか「危ない武器」というイメージだけが一人歩きしてしまった気がします。

でも実は、そのルーツはフィリピンの田舎町にある、生活に根ざした道具でした。本来の用途がすっかり忘れられてしまっているのは、なんだかもったいない話だなと思います。今回は、夫・ライアンの地元でもあるバタンガス州タアール町まで、本場のバリソンを探しに行ってきた話です。

でも実は、そのルーツはフィリピンの田舎町にある、生活に根ざした道具でした。「ネグロス」という地名も、実は似たような誤解を招きやすい成り立ちを持っています——外から見ると引っかかるけれど、内側では自然に受け止められているものは、フィリピンには他にもたくさんあるようです。

バリソンって何?名前の由来とルーツ

ショーケースの上に置かれる長いバリソン。こんなのどうやって使うと言うんだ。
ショーケースの上に置かれる長いバリソン。

正式名称は「バリソン(Balisong)」。フィリピン・バタンガス州タアール(Taal)町の「バリソン地区」で、今も職人の手作業によって一つひとつ作られています。

名前の由来はタガログ語で、「bali(折る)」+「sungay(水牛の角)」。直訳すると「折りたためる角」のような意味になります。

地名や物の名前の由来を辿るのが好きな方には、ネグロス島の名前の由来を調べた記事もおすすめです。

もともとは農作業や日常生活のための実用道具で、片手で開閉できる便利さから、農家の人たちにも長く親しまれてきたそうです。

素材はジプニーの部品と水牛の角

バリソンの刃は、ジプニーの部品などをリサイクルした鋼から作られます。ハンドル部分には水牛の角や麻雀牌が使われることも。

熟練の滑らかな動きというより、無骨でクラフト感のある佇まい。2〜3日かけて完全手作業で仕上げられる、まさに「フィリピンの手仕事」がぎゅっと詰まった道具です。

フリップの練習をしたかったライアンは、刃のないコーム型バリソンを物色中。もちろん買わせませんでした。
フリップの練習をしたかったライアンは、刃のないコーム型バリソンを物色中。もちろん買わせませんでした。

実際に売られているバリソンを手に取ってみると、映画のようにパチンパチンと小気味よく開閉するわけではなく、思っていたよりずっと「手作り感」満載でした。グリップがパカパカと緩めに動くものも多くて、これは安全のためにあえてこの遊びを持たせているのか、それとも使う人が自分の手に合わせて調整していくものなのか、ちょっと気になるところ。でも、その無骨さも含めて「ああ、これは工業製品じゃなくて職人の手仕事なんだな」と実感できて、むしろそこがよかったです。こういう「完璧じゃないからこそ味がある」フィリピンの手仕事は、マチュカタイルの記事でも紹介した感覚と近いものがあります。

職人文化としてのバリソン、その危機

バリソン文化を守ろうと活動しているNGO「KNBバリソン」代表のロン・カリーノさんは、こう話していました。

バリソンはフィリピン発祥なのに、今では多くのフィリピン人でさえ、それを知らない人が多いんです。

一部の国や自治体では規制の対象になっている一方、アメリカでは「バリコン」という愛好家の大会が毎年開かれるほど人気があるのだそう。フィリピン国内で製作者が減っていて、本場での火が消えかけているのは、なんとも寂しい話です。何気ない日用品だと思っていたものが、掘り下げると豊かな歴史につながっている——この感覚は、北海道のフグ提灯とフィリピンを結んだ記事を書いたときにも感じたことでした。

まさかの地元ネタ

そして今回訪れたタアール町、実は夫・ライアンの母方のルーツである町のすぐ隣。正確には、ライアンの母方の地元はタアールの隣町レメリー(Lemery)なのですが、このレメリー、もともとはタアールの一部(バリオ)だった町で、1907年に独立するまでは同じ町だったのだそうです。そう考えると、赤の他人の土地ではなく、ちょっと親戚の家に遊びに行くような感覚。「こんな僕が、バリソンを一本も持ってないなんて情けないでしょ」と、妙な使命感に火がついた様子で、本場のナイフを求めて出かけることになりました(ライアンの普段のキャラクターは「ライアンに聞いてみた」シリーズでも紹介しています)。

職人さんのお店を訪ねて

バタンガスのバリソンアソシエーションの看板「バリソン・バタンガス」が誇らしげに掲げられている。
バタンガスのバリソンアソシエーションの看板「バリソン・バタンガス」が誇らしげに掲げられている。

訪れたのは、代々バリソンを作り続けているバウティスタ家・ヴィックさんのお店「L. Rivera’s Balisong」。大きな通り沿いにポツンと建っていて、駐車スペースはなし。大型車がびゅんびゅん通り過ぎるすぐ横に立って、品定めをすることになりました。

お客さんは中年男性が多く、みんな目をキラキラさせながらオーナーのヴィックさんと話し込み、買ったバリソンを手にブンブン振りながら去っていきます。マニラから来た人たちも次々と訪れていて、交通量の多い道沿いのお店なのに、途切れることなく人が来る様子が印象的でした。

ヴィックさんはとてもノリが良く、フィリピン一大きなバリソンや、クルクルと巧みに回すテクニックを次々に披露してくれました。ちなみに最近は競技用の「フリッピング」ナイフも年々大型化しているそうですが、それと比べても伝統的なバリソンの大きさは負けていない、というかむしろ上回っているんじゃないかと思うほどでした。ライアンもすっかり混ざって大興奮。少年に戻ったような、みんなのキラキラした目が印象的でした。

現地での入手方法と価格帯

バリソンは、タアール町の「バランガイ・バリソン(Barangay Balisong)」とその周辺(ポブラシオン6・パンダヤン地区)の路上沿いの店で購入できます。刃物店が並んでいて、バリソンだけでなく包丁や鉈、剪定バサミなども扱っています。

バランガイはタガログ語で「自治体」の事。日本でいうところの「町」です。ここは町名がすでに「バリソン」なんですね。

価格帯はサイズや素材によって幅があり、目安は次の通りです。

  • 一般的なバリソン全体:おおよそ200〜1,300ペソ
  • 定番サイズの「ベインチヌエベ(veintinueve)」:600〜800ペソ程度
  • ペン型のダガーナイフ:1本70ペソ程度

なお、フィリピン国内での合法的なサイズは全長29cmまでとされています(それを超えるものは観賞用・展示用として販売されているケースが多いです)。お土産として買うなら、素朴な定番サイズを選ぶのが無難かもしれません。こうした地域に根付いた文化については、パンブリカットの記事でも書いているので、あわせて読んでみてください。

日本に持ち帰れる? 輸入・機内持ち込みの注意点

これは私自身、記事を書きながら気になって東京税関に直接問い合わせてみました。結論から言うと、「事前には判定できない」というのが正式な回答でした。以下、実際にもらった回答をもとに整理します。

銃刀法上の判断は、現物が日本に着いてから 税関いわく、バリソンが銃刀法上の「刀剣類」に該当するかどうかは、貨物が実際に日本へ到着し、輸入申告時の検査で現品を見て判断されるとのこと。事前に「これなら大丈夫」と保証してもらうことはできず、必要に応じて警察に鑑定を依頼する流れになるそうです。銃刀法の詳細な規制内容については、税関ではなく、持ち込み予定地域の最寄りの警察署に直接問い合わせるよう案内されました。

「武器」として輸入承認が必要になるケースもある 刀剣を含む武器類は、輸入貿易管理令により経済産業大臣の承認が必要になることがあります。バリソンの品目分類番号(税番・HSコード)が「武器(93類)」に該当する場合は、この輸入承認が必要になる可能性があるとのこと。税番の判定は、写真・素材・サイズ(長さ・幅・刃渡り)・用途・包装形態などの情報を添えて、税関の「品目分類に関するお問合せ」窓口にメールで個別に照会できます。

意外な盲点:グリップの水牛の角 これは想定していなかったのですが、バリソンのグリップに使われる水牛の角について、種類によっては「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」の規制対象になる可能性があると案内されました。該当するかどうかは経済産業省の野生動植物貿易審査室に確認が必要とのことです。お土産として買う際は、素材が本当に水牛の角なのか、規制対象の種でないかも気にしておいた方がよさそうです。

機内持ち込み・預け荷物のルールは税関の管轄外 機内への持ち込みや預け荷物として運べるかどうかは、税関ではなく利用する航空会社・輸送会社側のルールに従うとのことでした。刃物である以上、機内持ち込みができないのは間違いないと思いますが、預け荷物として運べるかは事前に航空会社へ確認するのが確実です。

まとめると、「絶対に大丈夫」とも「絶対にダメ」とも言えない部分がやはり残るのですが、少なくとも確認すべき窓口が具体的にわかったのは大きな進歩でした。本気で持ち帰りたい場合は、①最寄りの警察署(銃刀法)、②税関の品目分類窓口(税番・武器該当性)、③経済産業省ワシントン条約室(水牛の角の素材規制)の3箇所への確認が必要、というのが現時点での正確な結論です。

正直、これだけ丁寧に確認先を3箇所も教えてもらうと、「ダメ」とは一言も言われていないのに、なんだか遠回しに「やめておいた方が…」と言われているような気もしてしまいました。笑 どこにも明言はされていないものの、この慎重な言い回しからも、日本が刃物の持ち込みに対してかなり慎重な姿勢を取っていることが伝わってきます。

まとめ:持ち帰らない、という選択

正直なところ、ここまで税関とやり取りしておいて言うのもなんですが、私は今回、バリソンを日本に持ち帰る気はあまりありません。

うちの父はナイフ好きで、コレクションもそこそこ持っているんですが、根が生真面目な80歳の日本人らしく、「バタフライナイフはやばいナイフだ」というイメージを今も変えずに持っています。バリソンの他にも、ミンダナオのイスラム系の伝統武器「Bolo(ボロ)」など、フィリピンには興味深いナイフの文化がたくさんあるのですが、それを個人的に海外へ送るとなると、お菓子を贈るのとはわけが違います。送る側も受け取る側も、想像以上に負担がかかることが、今回の税関とのやり取りでよくわかりました。本気で欲しい人は、専門の輸入業者を通す方が現実的なんだろうと思います。

それに、これは私の個人的な感覚なんですが——バリソンは、この土地だからこそのナイフなんですよね。海外に持ち出されて広まっていくのも、文化としてはひとつの発展の形なんだろうとは思います。でも、それ以上に、生まれた場所でちゃんと大事にされ続けることの方が、実は大切なんじゃないかという気がしています。

モノに対する誇りや扱いを法律がどう線引きするか、という意味では、フィリピン国旗をめぐる法律の話にも通じるものがあります。

「バタフライナイフ=危ない武器」というイメージは根強いけれど、世界には愛好家の大会や展示会もあるくらい、実はポピュラーな存在。その歴史や背景を知ることは、遠くから正しく敬意を払うための、小さな第一歩なのかもしれません。フィリピンで13年暮らしていても(自己紹介はこちら)、まだまだ知らないことばかりだなと実感した1日でした。

Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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