フィリピンの野良犬は、こうして生まれる
フィリピンの地方に住んでいると、野良犬の群れを見かけることがあります。
「野良犬」と聞くと、生まれた時から誰にも飼われていない犬のイメージがあるかもしれません。でも実際には、群れにはたいてい成り立ちがあります。
田舎で家を建てるとき、作業員たちは工事が終わるまでその場所に住み込みます。そのとき、どこからか犬を連れてくる。ご飯を与えて世話をして、作業員なりに可愛がる。でも家が完成して仕事が終わると、彼らは去っていく。犬だけが残される。
今回の話に登場する犬たちも、そういう経緯でこの地域に居着いた犬たちでした。
「危ないな」——最初に感じた違和感
凶暴だな、と思いました。正直に言うと、それが第一印象でした。
野犬を見ること自体は珍しくありません。フィリピンに13年住んでいれば、それは日常の風景です。犬のボディランゲージや行動パターンも、だいたいわかっているつもりでした。
でもこの犬たちは、私たちに馴染もうとしなかった。
理由は想像できます。私たちは5匹の犬を連れてきた。家の中で育ち、人間と暮らすことが当たり前の犬たちです。片や、街で生き抜いてきた犬たち。同じ「犬」だけど、同じ言語で話をしない犬たち同士、という感じがしました。
危ないな、と思いました。
私が越してくる前から、問題は始まっていた
私がフィリピンに住んで13年になりますが、このアマデオという場所に越してきたのはまだ1年ほどです。
近隣には同じ一族が4軒あります。もともとマニラの人たちで、聞けばすでに6年近くここに住んでいるとのこと。犬の問題もその頃から続いているようでした。
この一族の中心的な存在は、私たちのサブディビジョンを含む一帯を担当する不動産会社のトップセールスです。地域の中でそれなりの影響力を持つ立場にあり、それが近隣住民との力関係にも影響しています。
その一族が、もともと建設作業員の置き土産だった犬たちに残飯を与えながら、敷地の外で番犬がわりに何年も飼い続けてきました。狂犬病ワクチンなし、首輪なし、管理なし。犬たちは増え続け、攻撃的になっていきました。弱った個体は治療を受けることなく死んでいく。その様子を見かねた心優しい近隣の人が、何頭かを引き取っていくこともありました。
なぜ私たちが標的になったのか
近所の人たちからこんな話を聞きました。ライアンは、ゴミ収集の問題を自ら動いて解決したり、地域のことに積極的に関わっています。そういう行動が目立ち、周囲から好かれていることが、この一族には面白くないのだろう、と。
子どもじみた話に聞こえるかもしれません。でもこれは、フィリピンの田舎では十分に起こりうる話です。誰かが地域の中で頭角を現したとき、既存の力関係にとってそれが脅威に映ることがあります。
記録された被害
フィリピンでのトラブルについては別の記事でも書いていますが、私たちは越してきた当初から被害の記録を続けてきました。
2025年9月9日、近所で猫が遺体で発見されました。激しい噛み傷があり、犬による攻撃と判断できる状態でした。以前保護した野良猫のことを思うと、胸が痛くなります。近隣住民が犬が猫を噛み激しく振り回す場面を目撃しており、写真と証言が残されています。
2025年10月12日・15日、CCTVにタイムスタンプ付きで犬たちが私たちの敷地に向かって走ってくる様子が記録されました。
2026年2月26日、近隣住民の犬が群れに襲われ命を落としました。飼い主がその場で目撃し、すぐにライアンへ連絡が入りました。
私たちは家にいて、ライアンがパソコンに向かっていたとき、メッセージが届きました。「Douglas died. Pinatay ng gangster dogs(ギャング犬に殺された)」。
その話を聞いた瞬間、いくつかの場面が一気に目に浮かびました。殺されていた猫の死体を見た日のこと。プーチンがお尻から出血していた様子。ジンピンが真横から噛みつかれて、道に転がっていく様子。
ワイルドな場所に住むのだから、うちの犬たちにもある程度の覚悟は必要だと思っていました。パックとしてフォーメーションを組むこと、危険から逃げる術を身につけること。ある程度の衝突は避けられないかもしれない、とも。
でもこれはあんまりだ。いくらなんでも、「フィリピンだから」では片付けられない話だと思いました。
現場の血痕の写真も保存されています。「ギャング犬」という呼び方は私たちだけが使っていた言葉ではなく、地域に住む人たちが自然にそう呼んでいた犬たちでした。
2026年6月4日・5日、AmberとIsla、私たちの犬2匹が噛まれて出血を伴うケガを負いました。翌日もCCTVに敷地への接近が記録されています。
一度や二度の偶発的な出来事ではありません。記録は積み重なっていました。
証言したくても、できない人がいる
被害を受けた近隣住民の中に、公式な証言を避けている方がいます。「相手が地域の不動産開発業者のセールスだから、後から嫌がらせをされるのが怖い」という理由です。
ダグラスを失った方も、バランガイの場には出てきていません。それでも、記録された写真、当時のメッセージ、そして必要であれば電話での確認を申し出てくれています。
法律よりも、地域の力関係が重く機能することがある。フィリピンの地方では、これも現実のひとつです。
「うちの犬じゃない」は法的に通るのか
何かあるたびに確認しに行きました。返ってくるのはいつも同じ言葉でした。「あれはうちの犬じゃない。知らない犬だ。」
ただ、フィリピンの法律上、これは必ずしも免責になりません。
RA 9482(狂犬病対策法)は、犬の「所有者」だけでなく「管理者(possessor)」にも責任を課しています。フィリピン民法第2183条も、「動物の占有者または使用者は、その動物が引き起こした損害について責任を負う」と定めています。
「飼ってはいないが長年餌を与えてきた」「自分の敷地に日常的に出入りさせてきた」という状態は、法的には「管理」に当たる可能性があります。また同法は登録・年1回のワクチン接種・リードまたは敷地内での管理を義務づけており、違反には罰則(ワクチン未接種:₱2,000、リードなしで公共の場を歩かせた場合:1件₱500)も定めています。今回の犬たちはこれらすべてにおいて未対応でした。
調停の場で、ついに化けの皮が剥がれた
転機はバランガイ調停でした。詳細はこちらの記事に書いていますが、今回の調停の場で、あることが起きました。
化けの皮が剥がれた、と思いました。
わかりきっていた話ではありました。でもそれを「バランガイという公の場で認める発言が出た」というのは、まったく意味が違います。
相手夫婦は、お互いの足並みが合わないことで有名な2人でした。夫は弟夫婦に責任を押し付けることに特に抵抗がなかったようで、「問題はライアンの不法侵入だ」というスタンスのまま、あっさりと妻の弟の名前を繰り返し出しました。
妻はそれを止めようとしていました。でも、もう遅い。
「……弟の家から来るんだから、言わなくてもわかるでしょ!」
明らかに、想定外のことが起きた、という顔でした。
6年間「知らない犬だ」と言い続けてきた犬たちの話が、こういう形で終わりました。終わったわけではないけれど、少なくともここから先は「誰の犬か知らない」とは言えません。
知っておくと役立つこと
今回の経験から、フィリピンで犬の問題に直面したときのために。
まず、記録を続けることが最初の一歩です。日付・時刻・写真・映像。感情ではなく事実の積み重ねが、あとで必ず力になります。
「うちの犬じゃない」という言い方は、RA 9482の管理責任を知っているかどうかで対応が変わります。
バランガイ調停は「解決の場」ではなく「次の手続きへの入口」として位置づけること。調停が不調でも「調停不調証明書(Certificate to File Action)」があれば地方裁判所への提訴が可能です。
まとめ|いざというときのために準備しておくこと
何かあったら、すぐ証拠を残す
とにかく記録です。ビデオ、写真、どちらでも構いません。大事なのはタイムスタンプが入っていること。CCTVが一番確実ですが、スマホで撮影する場合も日時が確認できる状態で保存してください。
録音も有効です。何かあればすぐ録音できるよう、ボイスレコーダーアプリを準備しておくことをおすすめします。ただし、銀行など撮影・録音が禁止されている場所もあるので、その点は注意してください。
証拠はタイムラインにまとめる
バラバラに保存しておくだけでは使いにくい。日時・状況・事実・証拠(写真やビデオ)を時系列で一覧にまとめておくと、いざというときに力を発揮します。
書くときのポイントは一つ。感情を抑えて、事実だけを書くこと。「ひどかった」「許せない」は要りません。「いつ、何が、どこで起きたか」だけを淡々と記録する。それが積み重なったとき、一番強い証拠になります。
情報の公開は慎重に
記録は取っておく。でも、安易に外に出さないこと。
特に進行中の案件は、SNSや口コミで情報が相手に届く可能性があります。「これは出していい情報か」を、弁護士やAIに相談してからにするのがおすすめです。今はAIでもある程度の法的な観点からアドバイスをもらえます。自分だけで判断しないことが大切です。
調停の場は詳しい人に事前相談する
バランガイ調停の前に、弁護士やパラリーガルなど詳しい人に一度話を聞いておくと、場で何が起きているかをリアルタイムで判断できます。後から「あれは違法だった」とわかっても、すでに終わっている。事前に知っておくことで、対応の選択肢が広がります。

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