フィリピン治安は甘くない|喧嘩に巻き込まれたら正義より賢さが必要

フィリピンで喧嘩に巻き込まれたら?―正義より賢さが必要な場所で生きる

フィリピンに住んでいると、「ここは日本とは違うな」と痛感する瞬間があります。法律や警察があっても、それが必ずしも自分を守ってくれるとは限らない。そんな現実を、先日友人の身に起きた出来事を通じて、改めて強く感じました。

これは、友人が遭遇した、実際に起きた話です。突然襲ってきたのは、街の有力者でした。

目次

些細なすれ違いから始まったトラブル

その日、友人は車で移動中でした。

停車した際、近くにいた数人の男たちと、偶然目が合いました。特に意味はありません。ただの視線のすれ違いです。ずっと凝視され続けているので、妙だなと思いつつ、友人は軽く手を上げて挨拶をしました。

ところが、相手の中の年配の男が、動物を呼ぶように口を鳴らして注意を引き、こう言ったそうです。

「なにこっち見てんだよ?なんか文句でもあるのか」

カチンときた友人が車を降りた瞬間、後ろから服を掴まれ、頭部を覆われ、複数人から攻撃を受けました。

相手の集団は180cmぐらいの大男たちでしたが、友人は喧嘩慣れしていたため、なんとか応戦してその場を切り抜けました。
ただ、ダッシュカメラも、味方もいない。完全に丸腰の状態でした。

相手の正体は、かつて街の有力者だった

その後、騒ぎを聞きつけた野次馬たちによって、相手の身元が明らかになりました。

攻撃してきたのは、そのコミュニティでかつて影響力を持っていた人物と、その息子だったそうです。

その親子は現在は失権し、収入源も大幅に減っていたとのこと。フラストレーションが溜まっていたのではないか、とのこと。
些細なことをきっかけに起きたトラブルであることは間違いなさそうです。
相手が「ただの人」ではない分、話はずっと複雑になりました。

警察に行ったら「丸く収めてくれ」と言われた

友人はすぐに警察へ向かい、事情を説明しました。

ところが、最初に返ってきた言葉はこうでした。

「丸く収めてくれ」

記録もとられなかったそう。

そしてそのあと、せめてと思って、警察に自宅まで送ってもらったそうですが、これが大きなミスでした。
警察に秘密主義はあってないようなもの。問題の相手に自分の住所を知らせることになってしまったからです。

翌昼、友人宅の前を黒い大型バンがゆっくりと通り過ぎるのを目撃しました。


そうなれば、警察に残る初期記録(Blotter)をきちんと取ってもらうに限ります。
再び警察に行き、今度は強引に作らせました。
「守ってもらえる」という感覚にはほど遠いものですが、こちらが被害者であるという証拠になります。

コミュニティの繋がりが事態を動かした

途方に暮れた友人は、コミュニティのガードマンにこの話をしてみました。

すると、思いがけない事実が明らかに。そのガードマン、実は件の人物と深い繋がりがあったそうです。過去にガードマンが関与したある事件を、その人物が助けてやった経緯があるといいます。

「さっきその元市長の車に乗って、お宅の前まで案内したんですよ。大丈夫。僕からも伝えておきますから。」

そしてほどなく、一人の警察官がやってきて、状況がさらに明確になっていきました。

先ほど黒いバンで現れたのはやはりその人物本人で、友人に穏便に済ませたいと伝えにきたのだと聞きました。次の選挙への出馬を考えており、この件を大きくしたくなかったからではないか、というのがその警察官の見方でした。

暴力を仕掛けた側が、矛を収めることを望んでいたのです。
こうして事態は、コミュニティの人間関係によって収まっていった…と判断してよい状態になったみたい。

双方からBlotterが提出されているので、このあと、Summon(召喚)があり、バランガイで話し合いがされる予定です。ここで、本当にこの有力者が和解を求めるのであれば、調停はキャンセルされるはずなんですけど…。

このままいけば、丸く収まりそう。

基本的に、フィリピンの人たちは、感情的ですが、ことを大きくせず、丸く収めたいとする人たちが多いです。
喧嘩があれば知り合いだろうがなかろうがみんなで止めに入る。今回もみんなそういうつもりたいたのかもしれないですね。

フィリピン人男性の実態はこちら:フィリピン人男性の特徴とは?あるあると、うちの夫がちょっと違うところ


この体験から見えてくること:あなたを守る9つのポイント

友人の話を聞きながら、私たち夫婦もあらためていくつかのことを考えさせられました。同じような状況に置かれたとき、あなたはどう動きますか。


1:不躾な呼ばれ方に、反応しないこと。

動物を呼ぶような鳴らし方で注意を引こうとする人がいます。
すごい失礼です。よくあるんですが、それらが使えるのはお互いに面識がある場合のみ。
もしその人物を知らない場合、無視をするべきです。

あなたは動物じゃないし、そんな見下げた呼びかけには値しない人物だから。

明らかに喧嘩を売ろうとしている。そういうサインには、無視が一番の返答です。


2:トラブルに巻き込まれても、車から降りないこと。

車はあなたを守る最大のシェルターです。できればウィンドウも下げない方がいい。

相手が車を傷つけた場合、それは確実に相手の落ち度になります。
降りてしまうと、その優位性をみずから手放すことになります。

また、車から降りる際に鍵をかけ忘れた場合、車そのものを奪われるリスクもあります。


3.背後をオープンにしないこと。

喧嘩の相手は、正面にいる一人や二人とは限りません。今回の友人のように、背後から頭部を覆われるだけならまだマシです。強打される場合もあります。

よくマニラで起きる窃盗でも暴力沙汰でも、グループで動くのが基本だといいます。
いざというとき、必ず周囲を見渡す習慣をつけておくことです。


4.相手が弱そうだからと、あなどらないこと。

フィジカルで勝ったとしても、相手がどんな立場の人間かは、その時点ではわかりません。

今回のように地域の有力者だった場合、想像以上のコネクションを持っており、多方面から攻撃してくることがあります。あなたに家族がいれば、子どもにまで危険が及ぶ可能性だってある。

有力者じゃなくても、彼らにはトローパ(仲間内で形成されたグループ)やギャングが、大なり小なりいる場合も。必ず誰かの背後には誰かがいる、と思った方が良いです。

喧嘩に勝った、俺は強い、ではなく、家族の安全を第一に考えて動くことです。即座にあなたのバックグラウンドチェックを始めるはずだということも、頭に入れておいてください。


5.警察や周囲に、自宅や個人情報を簡単に教えないこと。

今回、友人が「一番重大な過ちだった」と言われたのが、警察に自宅まで送ってもらったことでした。
夫のライアンも、友人の奥さんも、口を揃えてそう言いました。

初期記録には個人情報を書かざるを得ませんが、本当の詳細はSummonが始まってからで十分です。
それに、フィリピンの警察がその情報をどこまで守ってくれるかは、正直なところ疑問です。
警察に住所を知らせることは、相手にも情報が渡る可能性があると思っておいた方がいい。
実際に、その直後に相手が車で友人宅までやってきましたしね。

警察だからといって、信用しきらないこと。これはフィリピンで生きていく上での、現実的な心得のひとつです。

また、自分が持っているカードも簡単に教えないこと。

などなど。

フレンドリーにするのはいいことですが、こういう緊張した時に自分がどういう人物かを相手になるべく悟られないようにすること。

キラキラした装飾品や、ブランドのものを身につけている、など標的にされやすい服装もよくないです。

フィリピンの法や権力のリアルについてはこちら:フィリピンの刑務所にある獄中婚とは?


6.カメラをつけること。

フィリピンにはあちこちにCCTVがあります。
それでも、自分の車や自宅には必ずカメラを設置することをおすすめします。

証拠がなければ、こういった場面での勝率はぐんと下がります。カメラは嘘をつきません。身を守るのに、攻撃よりも一本のビデオや音声の方が、はるかに力を持つことがあります。

実際のCCTV設置についてはこちら:フィリピンでCCTV設置|WiFi・PoE・ソーラー比較と移住者の防犯体験談

周囲のCCTVに映っている可能性もありますが、そのビデオを提供することを拒否されることも。
正式な裁判になるまで、手に入りにくいです。


7.コミュニティに溶け込むこと。

バランガイも警察も、必ずしも助けになってくれるとは限らない。そういう状況で力を発揮するのが、人との繋がりです。誰々を知っている、誰々の知り合いだ、というのがとても重要になってきます。孤立してしまうと、あなたが不利になる。

ただ、私たち夫婦が意識しているのは、メリットがあるからという前提で人と繋がらないことです。そういう関係は長続きしないし、相手にも伝わります。ホスピタリティーに溢れると言われるフィリピン人ですけれど、自分が好きではない相手に時間を割くほど、暇でも親切でもありません。

友人として、良き隣人として付き合うこと。助け合うこと。それが、いざというときに本当に力になってくれる繋がりになると思っています。

パキキサマ(助け合い)やコミュニティについての詳細はこちら:フィリピンの家族サポート文化とその光と影


8. 戦うより、抑えることに重点を置くこと。

人間誰もがプライドを持っています。やられたら許せない、絶対に引けない、そういう気持ちは自然なことです。私だってそうなります。

でも、一番大切なのは、自分と家族が安全でいることです。

勝つことではなく、無事でいること。

それがこの国で暮らす上での、一番の「強さ」だと夫はいいます。

9. 常に家族とトラブル時のシナリオを話し合っておく

これは私たち夫婦の場合です。

できるだけ話し合いで解決するのが一番の理想ですが、万が一攻撃されたらどうする?
私たちは常に一緒にいるので、チームとして動くようにしています。

大体の場合は交渉 / 防衛係は夫、記録係は私。もし相手がこう動いたら、夫はこうして、わたしはああして…
などのフォーメーションをあらかじめ決めておきます。

そうするとパニックに陥ることはほぼなくなります。

その後の話(追記)パドリーノとは?

その後、事件のあった地区(バランガイ)のカピタン(キャプテン)が、警察の車に乗って友人宅を訪れました。
「防犯カメラにも全て写っているし、お前に非がないことはわかる。でも訴えを起こさない方がいい。相手は金があるし、弁護士をやっとって無理矢理でもお前を有罪にできるんだ。」といわれたのだそう。カピタンは友人の父親と面識があることから、こうきりだしてきました。

「俺がパドリーノになってやる。だから穏便にすませろ。」

パドリーノ(padrino) = 後ろ盾、顔役、ゴッドファーザー的な庇護者のことを指します。

私たちも友人のゴットマザー&ゴットファーザーになりましたが、似ているようでちょっと違うんですよね。
結婚式や、子どもへのものなら、女性はニナン(Ninang) 、男性ならニノン(Ninong)。

パドリーノはもっとこう組織的、政治的で社会的な後ろ盾になる人。「コネで面倒を見る人」、というニュアンスが強く、必ずしもおめでたい意味だけではありません。

この辺はラテンカルチャーならではなのかなーと思います。
カピタンにしてみたら、友人のパドリーノになることで次の票につながりますし、友人にしてみたら、頼れる助っ人ができる。こうしてコミュニティが出来上がっていくんですね。


おわりに|竹のようにしなやかでありたい

日本で育った感覚のまま海外で生活していると、「ルールがあれば守られる」「正しいことをすれば正しい結果になる」という前提を無意識に持ち続けてしまいます。

でも、あなたの常識が通用しない場面が、海外生活にはあります。少なくとも私はそう感じることがあります。

フィリピンでは治安以外でも想定外のことは起きます。Wiseカードがエラーになった話もそのひとつ。

これは「フィリピンが怖い」という話でも、フィリピン独自の話でもありません。「ルールの違う場所では、生き方も変えなければならない」という話です。

メトロマニラに住んでいたときは、「マニラは危ないなあ」「渋滞がひどくて人が住むところじゃないなあ」などと思ったものですが、田舎に来てみると、マニラはいくつものレイヤーが重なった、整備された場所だったんだと実感します。田舎生活はマニラよりずっとディープです。

多くの人たちは優しくフレンドリーですが、こうした事件はぐっと身近になった気がします。私たちがイメージする暴力事件といえば、スラム街や治安の悪い地域の話、と思うかもしれません。でも今回のように、権力者や有力者が、理由もなく突然一般市民に攻撃をしかけてくることが、本当に身近で起きた。

ニュースを見れば、警察官が窃盗をした、政治家が横領をした、という話は掃いて捨てるほどあります。でも、特別な理由もなく、まるで暇つぶしでもするかのように喧嘩をふっかけてきて、一般市民を窮地に追い込む。有力者だろうが誰だろうが、こうしていじめていい人間なんていません。

しかしこういう状況でも、フィリピン人は言うのです。「ハッピーに暮らそうよ」って。

こちらも読みたい:それでもフィリピン人が笑顔でいられる理由


私たち夫婦も体が小さいこともあって、何かあると絡まれることが少なくありません。相手にしてみれば、勝てる相手だと思い込んでいるのでしょう。

ただ、うちの夫は普段は温厚な人間ですが、マーシャルアーツに精通しており、彼の叔父はフィリピンのテコンドーのパイオニアとして知られるポール・カバティンガン。1976年のアジアテコンドー選手権で銀メダルを獲得した人物です。

そんな夫が言うのです。「できるだけ争いは避けるべきだ」と。そして「やっぱりハッピーで暮らさなくっちゃ。人生は短いんだから」と。

それでも「戦う準備だけはしておくこと。心身ともに、いつでもそのタイミングを逃さないようにしておくことだ」とも言います。

友人は無事でした。そして、この体験を通じてまたひとつ、この国での生き方を学んだように思います。

フィリピンで暮らしていると、頭を使います。賢く生きるためには、心も体も柔らかくしなやかでなくてはならない。そう改めて思った出来事でした。

あなたのコミュニティでも、今日起きてもおかしくない話かもしれません。

Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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