ハラナとクンディマンの違い―フィリピンに伝わるちょっと深い求愛文化の話

ハラナとクンディマンの違い―フィリピンに伝わる求愛文化の話

夫・ライアンとの出会いは、オンライン英会話でした。彼はフィリピン、私は北海道。画面越しに英語を習い始めて、いつのまにか2年半の遠距離恋愛になっていました。

そのある日のこと。

Skypeを開いたら、ライアンがカメラにぐっと顔を近づけて、画面いっぱいになった状態で歌い始めたんです。
真顔で、全力で。
これが、彼なりの「ハラナ」だったんでした。

フィリピン人男性の求愛がどれほど全力なのか、気になる方はフィリピン人男性の特徴もあわせてどうぞ。また、私たちの出会いから結婚までの経緯はこちらの記事で詳しく書いています。

目次

ハラナとは何か

ハラナ(Harana)とは、フィリピンの伝統的な求愛の慣習です。

伝統的なフィリピンの求愛文化・ハラナの様子
伝統的なフィリピンの求愛文化・ハラナの様子

ハラナ(Harana)とは、フィリピンの伝統的な求愛の慣習です。

夜に男性が好きな女性の家の窓の下に行き、ギターを弾きながら仲間と一緒に歌を歌って愛を伝えます。ロミオとジュリエットのバルコニーシーンを、もっとにぎやかにフィリピン風にした感じ、と言えば伝わるでしょうか。

音楽のスタイルはスペイン植民地時代の影響を受けていて、ハバネラというリズムが使われています。でも歌詞はタガログ語や地方の言語で書かれていて、古風で詩的な表現が多いのが特徴です。

ハラナのオリジナルはスペイン統治前からあった

実はスペインが来る前から、フィリピンにはすでに似た文化があったんですって。

ミンダナオ島のマギンダナオ族に伝わるカパニロン(Kapanirong)という慣習がそれで、若い男性たちがグループで女性の家を訪れ、窓のそばでクディヤピ(2弦のギター)や竹の笛などを演奏します。家の人たちがその演奏者を招き入れ、そこで若者同士の交流や求愛が行われるというものです。

構造がそっくりですよね。「男性がグループで女性の家に行き、窓のそばで音楽を演奏し、家に招き入れられる」という流れは、スペインが来る前からすでにフィリピンにあったわけです。

つまりハラナは、土地に根付いた求愛の慣習にスペインの音楽スタイルが重なってできたもの、と考えることができます。「中身は土着、形式はスペイン」という二重構造です。

ただ、1980年代以降は少しずつ廃れてきた文化でもあります。夜中に窓の下で歌うというのは、現代の住宅事情や生活スタイルにはなかなか合わない…ってことはないか。
フィリピンの人たちは歌う時はどこでも歌っちゃうしなあ。


クンディマンとの違い

ところで、ハラナとよく混同されるのがクンディマン(Kundiman)です。

クンディマンはスペイン植民地時代に、表向きは恋愛の歌として歌いながら、歌詞の中にひそかに祖国への想いや独立への願いを込めていた音楽ジャンルです。愛の歌に見せかけた、フィリピン人の静かな抵抗でした。

ハラナとクンディマンの違いをざっくりまとめるとこうなります。

項目ハラナクンディマン
意味求愛・セレナーデの行為/慣習フィリピン伝統歌曲・芸術歌曲のジャンル
リズム主に2拍子・2/4主に3拍子・3/4
歌詞タガログ語が中心。地方語もあり得る基本はタガログ語
歌う人伝統的には主に男性女性だけではなく男女どちらも。ただし女性歌手の印象が強い場合あり
テーマ恋愛・求愛恋愛、切ない愛、愛国心・祖国愛

一番シンプルな覚え方は、クンディマンはジャンル、ハラナは行為です。

ハラナの夜に歌われる曲がクンディマンであることも多い、という関係なんですね。


現代のハラナ

冒頭のSkypeハラナに話を戻しますが、あの時ライアンがやってくれたことは、形は変わっても本物のハラナだったんだと今は思っています。

窓の下ではなく画面の中。ギターを持った仲間もいない。でも全力で、真顔で、画面いっぱいで歌ってくれた。

フィリピン人男性がこういう求愛を自然にやってのけるのは、フィリピン人と結婚する男の特徴を読むと少し腑に落ちるかもしれません。


フィリピンに来てからも、ハラナは私たちの生活の中にありました。

ケソンシティに住んでいた頃、毎週日曜の夜になると2人でラジオをつけていました。ハラナの曲を流す番組があったんです。

パーソナリティーのタガログ語はゆっくりで、品があって。言葉の意味が全部わかるわけじゃなかったけど、丁寧で美しい言葉を使っているのは伝わりました。

2人でその音楽に合わせて踊ったり、お酒を飲んだりしながら、日曜の夜をゆっくり過ごしていました。

引越し先では電波が悪くて、その番組を聴かなくなってしまいました。でも今でもたまに思い出す、好きな時間でした。


そのラジオ番組を聴きながら、ライアンがこんなことを言っていました。

「スペイン統治に反発したメッセージをこめていた歌だから、あえてローカルの言葉で歌ってたんだけど、そもそもギターも、この文化そのものも、スペインから来たものだっていうのが面白いっていうか、ちょっと笑っちゃうんだよね。それだけ僕らの文化って、一つだけじゃなくていろんな異文化が混ざって切り離せないものなんだよ。」

確かに、と思いました。スペインへの抵抗をスペインのギターで歌う。その矛盾がそのままフィリピンのアイロニーでもあり、文化の豊かさなのかもしれない、と。

フィリピンの文化がいかに家族や共同体を中心に成り立っているかは、フィリピンの家族観と仕送り文化の記事にも書いています。ハラナもそうした「人と人のつながり」の文化の一部なんだと思います。

そしてもう一つ、ライアンがこんなことも言っていました。

「この文化が、現代のラップ文化にも繋がってるんじゃないかって思うんだよね。タガログ語は韻を踏んだラップにとても合った言語で、英語や日本語、他の言語にはない力強さがあるんだ。フィリピンのラップバトルは盛んで、僕も観るけど、完璧で生々しいアートだと思う。タガログって奥深い言葉だなって改めて感じるよ。」

ハラナ、クンディマンからラップバトルへ。時代も形も変わっても、言葉で感情を伝えようとするフィリピン人の気質は、ずっと続いているのかもしれません。

まとめ

ハラナは確かに廃れつつある文化かもしれません。夜中に窓の下で歌うなんて、現代ではなかなか難しい。

でも「好きな人に歌を届けたい」という気持ちも、「言葉で魂を伝えたい」という衝動も、Skypeの画面越しでも、日曜の夜のラジオでも、現代のラップバトルでも、ずっと生き続けているんだと思います。

そして今も、ライアンはたまに歌ってくれます。というか、むしろ「一緒に歌おう」となります。

窓の下でもSkypeの画面越しでもなく、同じ家の中で。それでも私にとっては、ちゃんとハラナです。

フィリピン人との結婚や求愛文化についてもっと知りたい方は、フィリピン人との結婚のリアルもあわせてどうぞ。

Kumiko Sato
✍ Author
Kumiko Sato

フィリピン在住の日本人ブロガー。文化・食・日常生活をテーマに、日本とフィリピンのあいだにある歴史や文化のつながりを紹介しています。
フィリピン人の夫とカビテ州アマデオで暮らしながら、海外生活のリアルを記録しています。

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