フィリピンに来てびっくりしたことはいろいろあるけれど、建設中の建物もそのひとつでした。
ブロックを積み上げて、その穴に鉄筋をブッ刺して、またブロックを積んで……という光景を初めて見たとき、正直「あれ、解体してる?」と思いました。見た目がなんというか、廃墟一歩手前みたいな雰囲気なんですよね。
知り合いの日本人建築士の人に写真を送ってみたら、返ってきた一言が——
「フィリピンの建物怖すぎ。鉄筋少ないし、間隔バラバラだし、モルタルの充填が甘い」
そのまま渡比を断念していました。辛辣すぎる。でもまあ、気持ちはわかる。
まあでも、笑えない話は自分たちにもあって。
私たちはケソンシティにもコンドミニアムのユニットを持っています。そこを選んだ理由のひとつが、CHBではなく、コンクリートを直接流し込んだパネル工法で作られていたから。フィリピンではかなりめずらしいタイプで、「それなら丈夫そう」と思ったんです。
ところが住んでみたら、壁のひび割れが目立つし、雨が降ると壁から水漏れがする。後から聞いた話では、炎天下でのキュアリング(コンクリートの養生)がうまくいっていなかったらしく、強度が出る前に乾いてしまったようで。管理会社に報告しても対応は遅いし、修繕もとりあえず塞ぐだけ。
「工法が良くても、施工と管理がダメなら意味がない」と、身をもって知りました。
そういう経験があったから、いざアマデオに自分たちの家を建てるとなったとき、私の中では最初から決まっていました。
耐震性の強い家じゃないと、意味がない。
日本で生まれ育った人間からすると、これはもう外せない条件です。フィリピンも地震国。マニラ近郊には「Big One」と呼ばれる大地震の発生リスクが現実的に指摘されていて、Caviteもその圏外ではない。
じゃあ、どうやって建てたのか。
選んだのは、SRC(Steel Reinforced Concrete)パネル工法という、フィリピンではまだそこまで一般的ではない構造です。この記事では、SRCとは何か、ハロウブロックと何が違うのか、実際に建てて正直どうだったか——を、包み隠さず書いていきます。
フィリピンの家は本当に地震に強いのか?

「コンクリートの家だから丈夫」——フィリピンに来てしばらくは、私もなんとなくそう思っていました。木造が主流の日本から来ると、ブロック積みの建物ってどっしりして見えるんですよね。
でも実際のところ、「コンクリートっぽい見た目」と「地震に強い構造」は、まったく別の話です。
一見コンクリートでも安心できない理由
フィリピンの一般的な住宅で使われているのは、CHB(Concrete Hollow Block)——日本語で言えばコンクリートブロックです。名前に「コンクリート」とついているので頑丈そうに聞こえますが、そもそもこのブロック自体の圧縮強度は400〜700 psi程度。
ざっくり言うと、縦の重さを支えるのは得意だけど、横からの力には弱い構造です。地震のときに建物を壊すのは、縦揺れより横揺れ。つまりCHBは、地震に対してもっとも重要な力の方向に、もっとも弱い。
もちろんCHB単体で壁を作るわけではなく、鉄筋コンクリートの柱や梁と組み合わせるのが正しい施工方法です。問題は、その「組み合わせ方」にある。
実際によく使われている構造(CHB住宅)
フィリピンの一般住宅の多くは、こういう構造をしています。
まず鉄筋コンクリートの柱(スティフナーカラム)を立てて、その間にCHBを積んでいく。ブロックの穴には縦方向の鉄筋を通してモルタルを充填し、横方向にはさらに細い鉄筋を入れながら積み上げる——というのが教科書どおりの施工です。
きちんとやれば、それなりの強度は出ます。問題は「きちんとやれば」という前提が、なかなか保証されないこと。
施工のばらつきという大きな問題
冒頭の建築士の話に戻りますが、「鉄筋が少ない、間隔がバラバラ、モルタルの充填が甘い」——これ、実は珍しい話ではないんです。
フィリピンの住宅建設は、資格を持たない職人が施工を担うケースも多く、図面どおりに作られているかどうかの確認が難しい。鉄筋の本数を減らしてもパッと見ではわからないし、モルタルの充填が甘くても壁を積んでしまえば見えなくなる。
私のコンドのひび割れも、おそらくその類いの話です。工法は良くても、現場での施工精度がボトルネックになっていた。
フィリピンで「地震に強い家」を建てようとするとき、材料や工法の選択と同じくらい——いや、もしかしたらそれ以上に——誰がどう作るかが問われます。
SRCパネルとは何か|ハロウブロックとの構造的な違い
「SRCパネルで建てました」と言うと、たいていの人に「それ何?」と聞かれます。フィリピン人でも知らない人が多いので、まず基本的なところから。
サンドイッチ構造のしくみ(スチール・EPS・モルタル)
SRC=Steel Reinforced Concrete、日本語にすると鉄骨強化コンクリートパネル。名前はゴツいですが、構造はシンプルです。
断面を見ると、こうなっています:
スチールメッシュ / EPSフォーム(発泡スチロール) / スチールメッシュ
この3層を斜めのワイヤーで貫通させて固定したものが、パネルの本体。現場ではこれを立てて並べ、つなぎ目にもメッシュを当ててから、両面にモルタルプラスターを塗って仕上げます。

「発泡スチロールが入ってるの?それって大丈夫?」と思うかもしれません。私も最初そう思いました。でもこのEPSフォームの役割は強度を出すことではなく、スチールメッシュ同士の間隔を保ちつつ、断熱・防音材として機能すること。構造的な仕事はスチールメッシュとモルタルがやっています。

ハロウブロックが横揺れに弱い理由
前のセクションで少し触れましたが、CHBは縦の荷重には強く、横からの力には弱い構造です。
なぜかというと、CHBで作られた壁は基本的に「積み上げた塊」だから。柱と柱の間に積んだブロックは、横から強い力が加わったとき、柱と壁の接合部から崩れやすい。地震の横揺れ、台風の強風——どちらも「横からの力」です。
SRCパネルが違うのは、壁全体がスチールメッシュで面として連続している点です。横からの力を一点で受けるのではなく、壁全体で分散して受け止める。建築の言葉で言うと「ダイヤフラム効果」と呼ばれる構造的な強さです。
強度の数字で見ると、差は歴然だった
数字で比べると、こうなります:
| 圧縮強度 | |
|---|---|
| CHB(ハロウブロック) | 400〜700 psi |
| SRCパネル(プラスター硬化後) | 約2,844 psi |
4倍以上の差があります。
出典:
Civil Engineer Mag – Steel Reinforced Concrete (SRC) Panel
Cavite Homes – Reinforced Concrete vs CHB
とはいえ数字だけではピンとこないと思うので、フィリピンの建築家Edさんが実際に「叩いて壊してみた」動画を紹介します。ハンマーで思い切り打ったとき、CHBとSRCパネルで何が起きるか。
タガログ語のビデオですが、実際にやってみたのところは——百聞は一見にしかず。
📺 Hollow Blocks Vs. SRC Maso Challenge: Ano ang mas matibay?
(ハロウブロックvsSRCチャレンジ。どっちが頑丈なのかためしてみた)
そして気になるコストの比較も、同じ方が動画にしています。「材料費だけ見るとSRCが高く見える」という誤解を、トータルコストで丁寧に解説してくれています。
📺 SRC vs CHB: Magkano ang Savings sa SRC Panels Compared sa Hollow Blocks?
コストの詳しい話は、次のセクションで自分たちの実例をもとに書きます。
なぜ我が家はSRC構造を選んだのか
SRCパネルの存在を知ったとき、「これだ」とすぐに思いました。でも、知ってから実際に「これで建てる」と決めるまでには、もう少し道のりがありました。
RCではなくSRCにした理由
耐震性にこだわるなら、選択肢はSRCだけではありません。たとえばRC(Reinforced Concrete)、いわゆる鉄筋コンクリートの打ち込みも、強度という意味では申し分ない。
ではなぜSRCにしたのか。
一番大きかったのは施工のしやすさと、それによる品質の安定です。RCは型枠を組んでコンクリートを流し込む工法なので、養生(キュアリング)の管理が非常に重要。前のセクションで書いたケソンシティのコンドがまさにそれで、炎天下でキュアリングに失敗したことで強度が出なかった。
フィリピンの現場で、型枠施工とキュアリングを完璧に管理するのは難しい。気温が高く、職人の経験にばらつきがある。「工法として正しくても、現場で再現できなければ意味がない」というのは、コンドの経験で痛感していました。
SRCパネルはその点、現場での施工変数が少ない。パネルを立てて、メッシュで繋いで、モルタルを塗る。型枠も不要、大規模なコンクリート打設もない。工程がシンプルな分、ミスが起きにくい。
強度と安心感のバランス
実はSRCパネルを知ったのは、旦那くん・ライアン経由でした。
最初は二人でいろんな工法を調べていて、一時期コンテナハウスも真剣に検討していました。でも調べれば調べるほど、通気性の問題とパネル自体の強度が思ったより弱いことがわかって、断念。
そのころライアンが見つけたのが、Architect Edのチャンネルでした。
最初は「おもしろい動画あったよ」くらいのノリで見始めたんですが、SRCの構造や強度の話を知るにつれて、気づいたら私よりライアンの方が深く調べるようになっていた。はじめは耐震性なんてこれっぽっちも気にしていなかったのに。
「これで建てよう」という結論は、気づいたら二人の間でほぼ同時に出ていました。
コストとの現実的な折り合い
「SRCってCHBより高いんでしょ?」とよく聞かれますが、私たちの場合はまったく同じ価格でした。
実際の見積書がこちら:

- 床面積62㎡(1階+ロフト)のカスタマイズ住宅
- 駐車場・浄化槽・建築確認申請・図面一式を含む
- 合計:₱2,481,920(VAT込み)
㎡単価に換算すると、住宅部分だけで約₱33,000/㎡。フィリピンの一般的なCHB住宅の相場と比べても、高くない。
理由は前のセクションで書いたとおりで、SRCは補強柱(スティフナーカラム)の数が少なくて済む分、材料費と工賃が抑えられます。工期が短いのも効いています。
「耐震性を上げるために余計にお金がかかる」わけではない——これが、SRCを選ぶ上でもうひとつ背中を押してくれた理由でした。
実際に建ててわかったリアルな話
設計も、工法も決まった。あとは「誰に頼むか」——ここが、フィリピンで家を建てる上で一番しんどいステップかもしれません。
業者探しで最初につまずいた
SRCパネルで建てたい、と思っても、対応できる業者がそもそも少ない。
フィリピンでは、「建設会社に頼めば全部やってくれる」とは限りません。建築士は自分で探す、電気配線は別の業者に頼む、というように工程ごとに別々の業者を自分でコーディネートしなければいけないケースが多い。初めて家を建てる人にとって、これは想像以上に大変です。
私たちが最終的に選んだのは、Hegdes Construction and Landscaping Services というカビテ州の会社。
ここを選んだ一番の理由は、建築士・電気配線・施工まで、ワンストップで対応できるから。フィリピンでこれができる会社は多くない。何か問題が起きたときの窓口が一本化されているのは、特に外国人オーナーには大きなメリットです。しかもカビテ州に拠点を持つ規模のある会社なので、いざというときに連絡が取りやすい——これも決め手でした。
もちろん、SRCパネルの施工実績があることも確認した上で依頼しました。

施工中の写真で見る、工程のリアル
実際の工程はこんな流れでした。基礎を作り、パネルを立てて、メッシュで繋いで、モルタルを塗る。
モルタルの塗り方がまた独特で——「塗る」というより、壁に向かってぺしっ、ぺしっと叩きつけていくんです。初めて見たときは「本当に大丈夫?」と思いましたが、これが正しい施工方法。業者によってはコンプレッサーでモルタルを吹き付けるところもあるようです。
家の完成後に受けたインタビュー。旦那が「パーミッション取得から建設までワンストップでやってくれるのですごく便利だった。でもパイプ役の建築士とのコミュニケーションがなかったりと難しく、そこが欠点だった。造りは頑丈で満足してる。10点中8点ってところですかね」と話しています。
ちなみに、私たちの後ろに見えるカラフルな壁はマチュカタイルとよばれるフィリピンの伝統的なセメントタイルです。
追加で発生した費用や調整
SRCパネル自体の施工については、見積書からの大きなズレはありませんでした。
追加費用が発生したのは、フェンスです。最初の見積もりに含めていなかったので、後から別途発注することになりました。「家が建ったら次はフェンスが必要だった」は、フィリピンで家を建てた人あるある、かもしれない。
フェンスの詳しい話と費用については、こちらに書いています:
フェンス・オキュパンシーパーミット記事へ
フィリピンで「ちゃんと作る」難しさ
SRCパネルを選んだことで施工の変数は減った——それは本当のことです。
でも、人間の変数は減らなかった。
施工中、作業員同士の喧嘩が絶えませんでした。後から現場に足を運んで作業員の人たちから直接聞いた話によると、発端はフォアマンの交代。長年ベテランとしてやってきた人が、新しいフォアマンの下で働くことになったのが気に入らなかったらしく——意見の食い違いがエスカレートして、ベテランが殺人脅迫をしだしたというんです。
カビテは銃とギャングが多い地域です。「ただの脅し」で済まないことは、ここに長く住んでいればわかる。結果として施工チームは3回編成し直されることになりました。
ちなみにフィリピンには、建設前に鶏を屠って地面に埋めて供える地鎮祭の風習があります。私たちはそれはせず、日本流にお酒とお米と塩をまく「なんちゃって地鎮祭」で済ませたんですが——殺人脅迫の話を聞いたとき、「鶏を埋めておけばよかったかな」と本気で思いました。
さらに終盤にも別の問題が出てきました。同じ時期に地元の有名人が家を建て始めて、労力がそちらに流れてしまったんです。工期が押し始めると、今度は作業が雑になってきた。
構造部分(シェル)はしっかり仕上がっていたのでそこは救いでしたが、塗装が雑、契約に含まれていた駐車場スペースが無視されている、作業後のゴミがそのままの状態で引き渡しされそうになる——終盤はそういうトラブルの連続でした。
建設会社はこういうことを施主には言いません。現場に足を運んで、自分の目で見て、作業員から直接聞く。フィリピンで「ちゃんと建てる」ためには、現場に顔を出し続けることが不可欠だと、身をもって学びました。
正直、SRCは一般人におすすめできるのか?
結論から言います。おすすめします。
こういう事情なら、迷わずSRCをすすめる
一番おすすめしたいのは、地震や台風のリスクを真剣に考えている人。
ちょうどいい話があります。先日、家のドアを付け替えたんですが、そのときに図らずもSRCの強度を目の当たりにすることになりました。
エントランスドアの周囲は、施工時に普通のモルタルだけで仕上げられていた部分。ドア枠を外したとき、周りの壁はあっけなく崩れました。一方、勝手口のドア周辺はがっつりSRCで施工されていて——びくともしなかった。
同じ家の中で、同じ日に、両方を見比べた瞬間でした。
数字や動画でいくら説明されても「ふーん」で終わることが、実物の差として目に入るとやっぱり違う。あのとき「SRCにして良かった」と改めて思いました。
工法より先に、これだけは確認してほしいこと
ひとつ、意外な話をします。
家を建てていたとき、近所の人たちにすごく不思議がられていたそうです。「なんであんなもので建ててるんだろう」「ブロックを買う費用をケチったのかしら」——見た目がどう見ても発泡スチロールだから、まさかそれが自分の家より頑丈だとは思えなかったんでしょうね。
その気持ちは正直わかります。SRCパネルは、見た目の説得力がゼロです。
でも、住んでみるとわかることがあります。
アマデオも真夏はそれなりに暑い。それでも家の中の壁を触るとひんやりしている。同じ場所の壁を外から触ると、むちゃくちゃ熱を持っている。EPSフォームが断熱材として機能しているから。
ライアンは最初、それが信じられなくて、内側と外側を行ったり来たりしながら壁をベタベタ触っていました。
フィリピンの住宅に「断熱材を入れる」という発想はほとんどありません。壁も薄い。どんなに大きな家でも、窓枠と大して変わらない厚みしかないことが多い。台風や地震のショート動画を見ていると、壁が構造として扱われることの危うさを毎回感じます。
SRCは工法の話である前に、「家に何を求めるか」の話だと思っています。
強度、断熱、施工の安定性——どれもCHBより上です。値段は同じ。フィリピンに住んで、ここに長く暮らすつもりがあるなら、選ばない理由を私は見つけられません。
まとめ|フィリピンで家を建てるなら”何を優先するか”
フィリピンに来て、建設中の建物を見て「解体中?」と思った日から、自分が家を建てることになるとは思っていませんでした。
でも実際に建てて、住んでみて、ドアを外して壁の強度の差を目の当たりにして——今は、SRCを選んで良かったと確信しています。
改めて整理すると、SRCパネルの家はこういうものです。
- 強度はCHBの4倍以上、横揺れに強い面構造
- コストはCHBとほぼ同等、トータルで見れば高くない
- 断熱・防音効果あり、フィリピンの暑さの中でも壁がひんやり
- 工期が短く、施工がシンプル、型枠不要
- デメリットは対応業者が少ないこと、これだけ
見た目は発泡スチロール。近所の人に不思議がられる。でも中身は、その辺のCHBの家より頑丈です。
フィリピンで家を建てるとき、多くの人が「どのデザインにするか」「どの設備を入れるか」を先に考えます。それはそれで大事。でも私は、「何で壁を作るか」をもっと最初に考えてほしいと思っています。
地震は選べない。台風も選べない。でも、家の構造は選べます。
SRCという選択肢があることを、この記事で知ってもらえたなら嬉しいです。
私たちの施工は、カビテ州の Hegdes Construction and Landscaping Services に依頼しました。建築士・電気配線・施工まで一括対応してもらえる、ワンストップの会社です。パッケージディールだったのでパーミット取得も含めてスムーズでした。
ただ、正直に言うと、業者選びには良かった点も、そうじゃなかった点もあって——その話は別の記事に書くつもりです。これからフィリピンで家を建てる方は、そちらもあわせて読んでもらえると参考になると思います。

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